2.

9月17日。快晴。

半分冗談のつもりだったモーニングコールのおかげで時間はかなり早かったけど目覚める事ができ、ゆっくり過ごすことが出来た。いつも遅刻をするタイプじゃないけれど、今日は本当に不安だったから助かった、とは思う。

ただ、身体がだるいというか重いというか…これは昨日の瑛くんのせいだ、絶対に。

何台も大型バスが並び、ざわざわと浮足立って落ち着かない生徒達が集まる集合場所。いつもと変わらず女の子達に取り囲まれた中心で、相変わらずの優等生スマイルを浮かべて会話を交わしている瑛くんを少し離れた場所から眺め溜め息をつく。

昨日はやけに自信満々だったけれど、あの女の子達に見つからず京都を観光できるなんて思えない。
あんな約束なんてなければ単純に修学旅行を楽しめたのかもしれないのに、やっぱりなにもかも瑛くんのせいだ。

ボストンバックを両手に持ちまたひとつ大きな溜め息をつくと同時に背中に衝撃が入り、思わず手を離したバックがコンクリートの上にどさりと音を立てて落ちた。

「オッス。なーんだよ、その辛気くせえ背中は。せっかくの修学旅行なんだから、もちっとしゃきっとしろよな。」
「……いっ…たいよ…、ハリー。これでも女の子なんだから、もうちょっと手加減してよ。」
「ぶっ……、ジブンでこれでもなんて言うか?わーった、わーった。オマエもオンナだからな?次からは―――って。ハハーン……ナルホドなー。」
「な、……なによ…?」

一瞬止まる呼吸よりも早いハリのある声。涙目になりながらも持ち主が分かる特徴ある声に振り返ると、人懐っこい笑顔が何かを見つけ、一瞬で意地悪そうなものに変わる。たじろぎ一歩下がる私に一歩踏み込み、背中を丸めて高さを合わせた。

「溜め息の理由はアレだろ?」
「ち、違うよ?」
「私だけのオウジサマなのにーってか?」
「だ、だから。違うんだってば!」
「図星っつーわけだな?」
「ち・が・う・の・!!」

ニヤニヤと、でも周りには聞こえないように小声で私に問い掛ける。全部ではないけれどあながち間違いではないハリーの推測に、慌てる私の声の方が大きくなり周りの視線を一斉に集め身を縮込ませた。

「ぶっ、バーカ。声がでけぇんだよ。ま、アレじゃオマエもつまんねーだろうけどな…。っと、ヤベ……オレ、行くわ。」
「あ、うん。ハリー……が、がんばってね?」

鬼の形相の先生がこっちに向かってくるのを見つけたハリーが、ゲッと小さく呟き慌てながら私をすり抜けバスに向かうのを見送り、自分も指定されたバスに足を向けた。

今日から1週間の修学旅行。
きっと一生に残る思い出は作れるだろう。
いいか悪いかは別として。



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