16.

真横に腕をぐいと引かれる。
散らばる誰かの旅行カバンを布団を跨がすように置かれてあるテーブルの上へと次々放り投げる瑛くんは、踏みつけ蹴られてくしゃくしゃになった敷布団を真っ直ぐに直し鞄が山積みになったテーブルを押して退ける。

―――そっか。ここなら隠れられる。

瑛くんの動きで理解した私が掛け布団を両手で掴み二人が同時に入れるように持ち上げ、頭から被りながら潜り込んだ瞬間に部屋の明かりも消えた。

「いったい何を騒いでいるんだ!此方へ来なさい!!」

部屋に響く大きな声の持ち主は教頭先生のもの。
入り口近くにでもいた生徒が見つかったのだろうか。それとも部屋の中に先生がいるのだろうか。少しでも布団を動かせば見つかってめくられるかもしれない。
そうなれば女の子である私がいる事―――だけじゃなく、異性である男の子の瑛くんと一枚の布団の中でまるで抱き合うように居るのがバレてしまう。

深く考えもせずに潜り込んだものの、私は床の間…すなわち壁際を向いて横向きになり、瑛くんも同じ方向を向き寄り添っていた。多分同じ方向の方が布団が不自然に盛り上がったりしないんだろうけれど…こんなにくっつかなくちゃいけないのか。腰の下から抱きかかえるように回された腕は私の体重と敷布団に挟まれてきっと重くて痛いだろうし、私は九の字というよりも身体は九の字、おまけに膝まで曲げ何故かおしりを瑛くんに向けて突き出し……。

「あ、あのぉ…瑛、くん…?」

「…なに?」

「少し…近くない…かなぁ…と。」

「一人に見せかけないと意味がないだろ。」

「それは…そうだけど…あの…ちょっと…。」

瑛くんのある場所辺りに私のお尻がありそうだとは言えずぼそぼそと口ごもる。かと言って身動きして離れる事も出来そうにもない。それでもあまりの密着感に堪えられずほんの少しだけお尻を前に出すように腰を引き密着した身体を離そうとすると、回された腕が腰を戻しまた私のお尻が突き出た。再び身体がぴったりと密着し、自分がどうなっているのかを想像するだけで顔が熱くなった。

「いったい君たちは何時だと思っているんだ。いいかね?―――。」

―――キミたち。個人ではなく団体を指す言葉という事は、何人かが見つかっているのだろうか。最初の声と大きさは変わってないという事は、その場から動いていないのだろうか。

大きな声にふと意識がそちらを向く。密封された空間は二人分の呼吸で息苦しく感じるものの、緊張感がそれを上回るためあまり気にはならず、外の様子を窺おうと聞き耳を立てる。そのため、背中からぴったりと寄り添う瑛くんの僅かな変化に気付くのが遅れた。

「……え…っ?」

つつつと瑛くんの左手の指先が私の身体の中心を撫でる。体操服の裾から潜り込みお腹を撫でながら胸に、ブラの隙間からつるりと入り掌に収める。一瞬の、予想さえしなかった事に頭が働かず、真っ暗な中体操服の中で動く瑛くんの手を見つめた。

「ちょ…瑛くん、なにし―――。」

「しーっ。黙らないと見つかるぞ?」

「そん…ッ?!」

「声…だすなよ…?」

有無を言わさぬような低い、でもぞくりとする瑛くんの声。指先で捏ねる胸の先が甘く痺れつい漏れる声に両手で口を塞ぐ。益々丸くなる身体とは反対に突き出したおしりが瑛くんに当たり、漸くその変化に気付いた。

ちょうど中心に当たる固いもの。それは携帯とかではなくほんの少しだけ柔らかく、まるで生きているようにぐいぐいと押し上げる。



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