12.

瑛くんの声と引かれる腕に後ろを振り返る。
明かりが消える瞬間見えたのは、中途半端に開けられた押し入れの暗闇だった。そしてすぐに部屋全体がその闇と同じ色に包まれる。

―――そっか。ここなら―――。

腕を引かれるまま瑛くんの後に続き押し入れの中に潜り込むと同時に瑛くんがぴしゃりと扉を閉めた。空っぽだと思った押し入れの中はまだ布団が真ん中に残っていて二人が入れるぎりぎりの空間、足を広げた体育座りの状態の瑛くんと四つん這いで半分正座のような私が向かい合っていた。

これは……ちょっと苦しいかも。

板間の押し入れに四つん這いでは膝が痛いし、何より私の恰好が場所を取るから瑛くんがきっと窮屈に違いない。ちゃんと正座すれば大丈夫かもとあまり動かないように気をつけながらもぞもぞと足を動かす。

「なぁ。あっち向けばいいんじゃないのか?」

「あ…あっち?」

「そう。……こう。」

ぼそぼそと耳元で囁く瑛くんの声。
暗闇では言っている方向がまったく分からない。
それに気付いたのか私の両脇腹を掴みくいと捻る。どうやら瑛くんと同じ方を向けばいいらしい。
よく分からないものの言われる通りにと身体を小さくさせながらゆっくりと回転して瑛くんに背を向ける形で同じ方向を向くと、脇を掴まれていた手がお腹へと回りぐいと引かれた。

「わ…っ。」

「しーっ。静かに。こうすれば楽だろ?」

「う、…うん。でも、瑛くん重くない?」

「大丈夫。…それにしても…ちょっと息苦しいな。」

とっさの事に反応する事も出来ず尻もちをついた私は瑛くんと同じ体育座りになり背中を預けている。背中から抱き締められる慣れない体勢の気恥かしさから逃れようと自分の身体を前に傾けると、同じようについて来る瑛くんが回した片腕を伸ばしほんの少しだけ押し入れの襖を開けた。

「いったい何時だと思っているんだ。―――。」

狭い押し入れの湿ったような空気とは違うひんやりとした新しい空気と一緒に入ってくる声。見つかった生徒がいるらしく、聞こえてくる教頭先生の声は誰かに向けられたもの。ただ、まだ部屋の明かりは消されていて、全員が怒られているわけではなさそうだった。
ひとつ言えるのは、私が見つかったらあれでは済まないだろうという事。

―――どうしよう……。

嫌なくらい自分の心臓がドキドキして手が震える。
同じ言葉だけが頭の中に浮かんで両手をぎゅっと握りしめた。

「大丈夫だって。こっちへ来ないとこみると、あいつ一人だけ叱ればみんな大人しくなるとか思ってんだろ?じゃなきゃ、これ見よがしにあんな部屋の入り口で怒んないって。」

「そ…そうなの?」

「ああ。叱るなら全員集めなきゃなんないだろうからな。そんな面倒な事はしないだろ。まぁ、あいつはかなり長いお説教聞かされそうだけど。」

伸ばしたはずの腕をまた私のお腹に絡める瑛くんが押し入れの壁に背中を預ける。同時に私の身体も傾きまた瑛くんにもたれかかる形となっていた。重いんじゃないだろうかとは気になるものの外の様子も気になる。囁く瑛くんの言葉が本当なのかと少し頭を後ろに反らした。
密閉され狭い空間の押し入れよりも明かりを消した部屋の方が明るいのか、隙間から入り込む僅かな光でぼんやりと顔が分かる。瑛くんからも同じように見えるのか少し俯いた顔がゆらと動き近付いた。



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