「皆も早く寝るように。分かりましたね!」
静まり返った部屋に響く声とドアの閉まる音。
こつこつと微かに聞こえる足音が遠ざかる。
息を潜めていた者たちの安堵の溜め息とごそごそと布が擦れる音、押し入れの中からも人の気配。
肌を寄せ抱き合っていた瑛くんの腕がそっと離れ畳の擦れる音をたてながら狭い空間から素早く出ていく。
―――さりげなくおでこに唇を落として。
ざわめきが戻り始め、私ももそもそとテーブルの下から身体を解放させた。
パッと部屋を照らす電気が暗闇に慣れた目に刺さるようで思わず瞳を細め辺りを見渡す。
入り口近くではいち早く見つかったらしい男の子が何人かに囲まれからかわれている。窓の近くには緊張が解けたのか笑いあう子たち、苗字さんも何処かに隠れていたのだろう。髪を手櫛で直しながら何故かハリーに文句を言っている。一方のハリーは相変わらずで何事もなかったように笑っていた。
「ちょっと得した。」
「―――えっ?」
緊張の糸が解けぼんやりとする私の隣に瑛くんが並び立つ。
ちらと見降ろす瞳はどことなく悪戯っぽく独りごとのような呟きに首を傾げた。
「ドキドキしたけどたまにはこういうスリルを味わうのもいいかもな?」
「ドキドキどころじゃなかったよ〜。見つかったらどうしようって―――。」
「そうか?かなり積極的だったけど?」
「―――!!もう!瑛くん!」
「…ぷっ。」
それはさっきまでの暗闇の中の出来事。
あらためて言われると顔から火が出るくらいに恥ずかしい。先生の巡回もあり少しは静かになっている今、誰かに聞かれでもしたらとくすくすと笑う瑛くんの腕を何度も叩いた。
楽しそうな瑛くんには効き目がないようだけれど。
「うーっす。オマエらもどっか隠れてたみたいだな?」
「当たり前。見つかるようなヘマはしない。」
「まーな。見つかったヤツ鈍くさすぎ。んじゃ、そろそろ解散すっか。センコーも部屋に戻ったらしいし。」
「そうだね。今のうちに帰ろっか、あかりちゃん。」
「う、うん。そうだね。」
ひらひらと手を振りながら近付いてくるハリー。その後ろに続く苗字さん。
いつまでもこうしている事は出来ないけれど、突然告げられる瑛くんとの時間の終わりがなんだか名残惜しい。自分でもはっきり分かるほど声が沈む。
「あかり。…明日、寝坊するなよ?ロビーで待ち合わせ、だからな?」
「………うんっ!」
「しゃーねーな、またオレ様が―――。」
「お前は……いらない。」
噛みつくハリーの文句を綺麗に無視する瑛くんに背を押され男の子の部屋を後にする。
巡回の後だからかさっきとは違いしんと静まり返っていて、エレベーターは来た時と同じように止まったままだったらしくボタンを押すとすぐに扉が開いた。
「おやすみなさい。」
「ああ。…おやすみ。」
滑るように閉まる扉。
名残惜しい私の気持ちだけを残し小さな衝撃を合図に下へと降りていく。
また、明日は一緒にいられる。
扉が閉まりきる瞬間見えた瑛くんの真似をするように指で唇に触れながら小さく笑みを漏らしたのだった。
11.