10.

電気が消える瞬間見えたのは瑛くんの片手が目の前のテーブルを元に戻すところ。
ドンと響く鈍い音がこのテーブルの重さを表していた。

―――この下に隠れるんだ。

瞬間的に理解しすぐさま四つん這いになってテーブルの下に潜り込む。テーブルの足の高さしかない狭い空間で横向きになり瑛くんも入れるように身体をずらせて隙間を開けた。
同じようにもぞもぞと近付いてくる気配がするけれど、まだ暗闇になれない瞳では瑛くんの姿がはっきりと見えなかった。

「いったい何を騒いでいるんだ!此方へ来なさい!!」

シンと静まり返った部屋に響く教頭先生の怒鳴り声。誰かが逃げ遅れて見つかったのだろうか。暗闇なのとドアがある方向に背を向けているせいで、何が起こっているのかは分からない。ただ、普段見た事も聞いた事もないものすごい剣幕の声に恐怖に身を小さくさせた。

ガミガミと続くお説教は最初の声よりもほんの少しだけ遠い。部屋の中まで入ってきた訳ではないのだろうけれど、ドアは開いているに違いない。中を確認するために電気をつければ間違いなく私は見つかるだろう。

―――見つかったらどうしよう。

そんな事ばかりが頭に浮かんでぐるぐる回る。まっ暗闇なのに視界が滲みぎゅっと目を閉じた。

――――ふわり―――。

肩を包む温もり。瑛くんの腕。
ぐいと寄せられ体操服の襟元が鼻先に触れる。暖かくそして瑛くんの香り。思わずそっと目を開け、そして少しだけ顔を上げる。

「…見つからないから心配するな。」

「でも…。」

「廊下にいる…だから大丈夫…。」

私の方に身体を向けている瑛くんには状況が見えているらしく、囁きながら肩から回した手で背中をそっと叩き、胸元で合わせた両手に大きな掌が被さりぎゅっと握られる。
じんわりと広がる安心する暖かさ。もぞと掌を広げ瑛くんの大きな掌に重ねた。
どちらともなく指を絡めて握り合い、薄く入り込む廊下の明かりを頼りに見つめあう。

「……ん…ッ。」

回された腕にまた引き寄せられ身体の距離が近くなる。唇に息遣いを感じ、躊躇いながらもゆっくりと目を閉じた。
重なる瑛くんの柔らかな唇。
僅かに動いて私の唇をちろりと舐める。条件反射のように私の唇が開き瑛くんを受け入れていた。

「…ん、…ふッ…。」

重なる指先をさっきよりもぎゅっと求めるように握りしめ、絡められる舌に私も合わせて瑛くんを感じ取る。

自分の身体の神経すべてが唇に集中し、そして反対に教頭先生のお説教の声はどんどん遠くなるような気がした。



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