9.

「……で?なんでこういう事になったんだ?」

「ハリーがお腹すいたからお菓子持って来いって…でもでもやっぱり行くのやめようって思ったんだよ?だけど、エレベーターで苗字さんに会って…。」

「そのまま連れて来られたってか?」

「う…うん。そういう事、かな?」

ついたて代わりのテーブルに隠れ、時々思い出したように飛んでくる枕をひょいと放り返しながら瑛くんがじっとりと私を見つめる。咎めている瞳はいつもの過保護なお父さんみたいで、悪戯をして怒られている子供のように身体を小さく縮めた。

「バカ。警戒心なさすぎ。……まぁ、今回は許す、けどさ。」

「いたっ。…って、なあに?最後、なんて?」

「な・ん・で・も・な・い。ほら、それ貸して。せっかく持ってきたんだから食わなきゃ勿体な……ってさ、これ…買いすぎだろ。こんなに一人で食うつもりだったのか?おまえ……太るぞ?」

「た、食べないよ!珍しくてつい…気づいたらこんなになってて――?!……あ、これ美味しい…。」

「ん?どれどれ…?あ、ホントだ。」

伸びた右手が頭に降り下ろされ痛みを伴う。相変わらずの素早い攻撃とも言えるチョップに頭を擦り小さくて聞こえない語尾に首を傾げた。
少し投げやりな声といまだに私の右手に握られた袋に伸びる手。
ここに来た理由…というより、ハリーに渡すはずだった物が入ったビニール袋を奪って物色するようにひとつずつ取り出す。想像以上に詰め込まれていたのか眉を動かして呆れたように私を見つめていた。
その瞳に思わず俯きビニール袋を取り囲むように広げられた自分が買ったお菓子を見つめる。

自分の部屋では気付かなかったその量の多さにそんな訳がないと顔を上げて首を振るも、瑛くんの指に摘ままれた渋みのある緑の小さなお菓子を差し出され条件反射のように口に入れた。

ふわりと広がるお茶の香りと程良い甘味、さくりとした歯ごたえに小さく呟く。
それに笑みだけを返し、私へと差し出した指を使ってお菓子を食べる瑛くんが指先をぺろと舐める当たり前といった仕草が恥ずかしく感じ、思わず俯いた。

「やべっ!!センコー来るぞ!みんな!隠れろ!!」
「マジかよ!」
「早くしろ!!」
「電気!電気!!」

ドタバタと走り回る音、投げられた枕があちこちに落ちる音、そして楽しそうな笑い声。
いつまでも飽きないのか入れ替わり立ち替わりメンバーが変わっている枕投げ大会の最中、それ以上に大きく響くドアの音に続く誰かの叫び声。
映像を止めたみたいにぴたりと動きを止めた全員が打ち合わせていた訳でもないのに一斉に部屋の端へとずらされた布団を真ん中に寄せ出す。
のんびりとついたての中で瑛くんと話していた私は何が起こっているのか分からず膝立ちをしてそれを茫然と見つめた。

「あかり、こっち!」

手首を掴む瑛くんの声。
ぐいと引っ張られた瞬間部屋の明かりが消え真っ暗となった。

瑛くんに引き寄せられ私が隠れた場所は……。

ついたて代わりのテーブル
後ろにある押し入れ
すぐ傍にあった布団の中



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テーマ「人外ファンタジー」
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