7.

私の手が離れた隙を狙うかのように、ガコンと衝撃音をさせ閉まろうとする扉とハリのある声。
びっくりして振り返ると、両手を広げ扉が閉まるのを阻止したハリーがいつものように笑っていた。
苗字さんからもさっきまでの張りつめたような雰囲気は消え、呆れたように笑っているのをまるで狐に摘ままれた気分で二人の顔を交互に見つめた。

「なーに頭振り回してんだ。っつーか、ふつーコイツに言うか?」

「いたっ。だって!一人で来れるわけないよ、男の子しかいないんだし。」

「そうだよ。あかりちゃんはハリーと違ってデリケートなんですー。か弱い女の子なの。」

「か弱い、かぁ?どっちかっつーと……。ま、いーわ。菓子は…結構ありそうだな、せっかくだから佐伯んとこ行こうぜ?」

「え?ええっ?!ど、どうして、てるっ?!」

訝しげな顔を一瞬見せたハリーが私の握るお菓子入りのビニール袋を掴みそのまま強く引く。
突然の事に足を踏ん張る間もなく勢い付いたままエレベーターから廊下へと連れ出され、引きずられながらひとつの部屋に辿り着いた。

「ここ。佐伯のクラスの部屋。」

「な…なんの音なの…?」

「あ?そんなのアレっきゃねぇっつーの。」

「あ…あれ…?」

拳(こぶし)を作りノックしようとしたハリーよりも早く、なにかが扉にぶつかり小刻みに揺れる。
その後もドタンバタンと大勢が暴れているような、尋常ではなさそうな部屋の中の雰囲気に、大丈夫なのかとハリーを見つめると小さく笑い声を漏らして横目でちらと私を見た。
私の不安に気づいているのか、にやりと嫌な笑顔を見せると中の騒ぎに負けないくらい乱暴に扉を叩き続けると、何度目かのノックに気付いた誰かがいたらしく、カチャとドアノブの回る音がし扉が開いた。

「はい……なんだ。針谷か。」

「うーっす。」

「うーっす、じゃない。なにしにきたんだよ。」

「うっわー。ちょーフキゲンモード。せーっかくこの、オレ様が、たのしーい修学旅行になるように頭を働かせてやったのによ。」

「いちいち言葉を強調させるんじゃない。ウザい。」

半分ほどしか開かれていない扉で姿は見えなくてもその声は紛れもなく瑛くんのもので、思いがけずこんなに近くまで来てしまった事になんとなく緊張して心臓がドキドキと音を立てる。
瑛くんも私がいる事に気付くはずもなく、不機嫌な声のまま。
扉に肘をかけたハリーを追い出そうとしたのかぐいと扉が内側に引かれた。



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