6.

「……分かった。じゃあ、私がびしっと文句言ってあげる。あかりちゃんにばっかり甘えるんじゃないの!ってね?」

「ちょ…!そうじゃなくて、行かなくていいよねって言いたいんだけどっ。」

「ダメだよ。今行かないとハリーは何のことか忘れちゃうよ?バカだから。」

行こう行こうと背中を押しエレベーターのスイッチを押す苗字さんに抵抗して足を踏ん張ってみるものの、思ったよりも強い力に押されすぐに降りてきたエレベーターの中に閉じ込められた。

男子部屋はこの階よりも一階下。
動き出したエレベーターは僅かな衝撃だけを感じさせてあっという間に到着を告げる気の抜けた音が鳴らせて扉を開ける。そこから見えるのは女子が使うフロアと変わらない無機質な壁と、南国っぽい観葉植物。
自然に扉が閉まらないよう手で押さえながらそっと顔を出して廊下を窺うと、女子よりも騒がしい声が聞こえてくるものの、人気がないのは変わらず少し安堵の息を吐いた。

「………あ、私。今あかりちゃんとエレベーターにいるの。男子の階に着いたとこ。……そんな事言ったってハリーの部屋なんて分かるわけないでしょ?……あのね?か弱い女の子だけなのに、男の子の部屋なんて行けるわけないの。呼び出したのはハリーなんだから…来てね…?」

「…あ、あの…?」

少し抑えた有無を言わさぬような声にそこにいるはずの後ろを振り返る。
伏せた顔からは表情が見えず小さく声をかけると、耳に当てていた携帯をゆっくりと下ろし静かに閉じた。

―――もしかして……怒ってる―――?

電話の相手はハリー。
どうせハリーの事だから、勝手に来いとかなんとか言ったに違いない。
びしっとって言ってたんだもの。
あっ、それより大きな喧嘩になっちゃうとか?
元々静かに出来ないハリーが大声とか出しちゃって先生が飛んできたりしたら…まったく関係ない苗字さんまで怒られて、男子がいっぱい集まって来て笑われたりして、せっかくの楽しい修学旅行が台無しになっちゃったりしたら―――!!

静かに俯く苗字さんから伝わる尋常ではない気配に、悪い結果ばかりが次から次へと頭の中に浮かんで消える。
ハリーがここに来る前に苗字さんを落ち着かせて、大事になる事だけは避けないと。ハリーの方をなんとか…静かにさせるなんて私にはきっと無理だ。

「……?あかりちゃん?どうしたの?ひきつった顔して…。」

「あのね?あの、落ち着いて、ね?喧嘩はよくないから、ね?」

「えっ?!ちょ…どうかしたの?」

「だからね……?」

「おーっす。悪ィな、あかり。っつーオマエがなんでいるのかわっかんねぇけど。」

「だから言ったでしょ?女の子だけで無理って。それに、プリントにもあったでしょ?お互いの階には遊びに行っちゃダメって。」

「……あー…そうだっけか?」

「あったのー。もう、ちゃんと読んでないんでしょ。」



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