5.

「無理だよ…絶対に一人じゃ無理に決まってるよ。」

夕食も入浴も終わった後の自由時間。
私はお菓子が大量に入ったビニール袋を両手で持ち、エレベーターの前で途方に暮れていた。

「おっす。なんかさー、ここの料理ってがっつりしたものねぇんだよなー。こんなんじゃハラもたねぇぞ。っつーことで、なんか食うもの持ってきてくれ。」

「へっ?ちょ、ちょっと!どうして私がー−−?!」

「オレ様のファンにこんな事言ったらセンコーにバレちまうぐらい押しかけちまうだろ?そうなったらオレ様が叱られちまうじゃねぇか。つーわけだから、んじゃなー。」

「ちょ!それって見つかったら私が怒られちゃうって事じゃな―――ねぇ、もしもし?もしもしっ?!」

慌てる私をよそに、用件だけ告げられた携帯が規則正しい機械音を残す。
余程大声になっていたのか、思い思いにくつろいでいた同部屋の女の子達の視線が一斉に集まり身をすくめた。
誤魔化すために笑顔を向けなんでもないと手を振ると不思議そうに私を見つめていたものの、すぐに興味が他に移りホッと胸を撫で下ろし切れた携帯を見つめた。

確かにハリーが目当てのお菓子はたくさん買ってある。
それは新幹線の中でも見ていたし、ここに着いてからも珍しいと買い求めた地域限定のものとか…はっきり言ってしまえば修学旅行中に食べきれるかどうかも分からないくらいある。

でも、男子だけが泊まる階に一人でのこのこと出かけていく勇気などまるっきりないし、かと言って知らん顔してしまえば、ハリーの事だから自由時間が終わるまで何度も何度も電話してくることは目に見えていた。

―――そうだ!男子の階まで行って携帯で呼び出せばいいんだ。エレベーターのとこで渡して、さっと帰ってきたら大丈夫だよね?

はぁとため息を吐いた瞬間出た自分のアイデアに、それがいいと一人頷きながら旅行バックから溢れたお菓子を袋に詰め込み部屋を出エレベーターに向かう。
学校のように廊下に出ている生徒などいるはずもなく、各部屋から聞こえてくる楽しそうな笑い声を聞きながら、カサカサとビニールの音をたててそこへとたどり着いた。
一度はスイッチに手を伸ばし、押す手前で心が弱くなり腕を下ろす。

―――やっぱりやめとこうかな。部屋までは行かなくたって目立つ事には変わりないし。ハリーからの電話なら、電源落としちゃえば―――電池切れちゃったのかなーとかなんとか。

「うん。それがいいよね。そうしょっと。」

「なにをそうするの?」

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

「ちょ!あかりちゃん!私、私。落ち着いて、ねっ?!」

「……あ、苗字さん。…びっくりした…。」

「びっくりしたのは私だって。どうかしたの?こんなところで。」

「あ、あのね?実は……。」

心の中で納得しくるりと振り返る瞬間真後ろからかけられた声に驚き悲鳴を上げた。
その人物も私の声に驚いたのか少し飛び上がるものの、なだめるように両手で落ち着けとばかり合図する。
ひらひらと上下する手が少しだけ落ち着きを取り戻させ、顔を上げて相手を確かめた。

目を丸くさせながらも不思議そうな顔で私を見つめる苗字さんに、彼女だったら分かってくれる。自らが怒られるような事はしなくてもいいと言ってもらえると縋るような気持ちで経緯を話し始める。



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