4.

真っ直ぐに伸びた石畳の古い街並み。
二人分の影が細く長く伸びる。
空は綺麗な茜色、和を残す民家やお寺は黒く浮き上がり、空の朱を強くさせていた。

段々と宿泊しているホテルが近付くのを思い知らされるかのように、自分達と同じ制服姿の学生が増えていく。

それと同時に繋がる瑛くんの手の力が緩み、撫でるように離れた。
私に残った瑛くんの温もりが名残惜しく、少しでも繋ぎ止めておきたくて拳をぎゅっと握りしめ顔を見上げる。
余程私の顔が情けなく映っていたのか、さっきまでは屈託なく笑っていた瑛くんの表情も何処か困ったようになり小さく笑みを浮かべた。

「今日はさ、ホント…楽しかった。思わぬ店も見つけたし…色々珍しいものとかも見れたし。」

「思わぬ……あの、骨董屋さん?」

「ん。来る前は絶対店に出てた方がいいとか思ってたけどさ、あかりとだったから楽しかったんだろうな。」

「……うん。わたしも楽しかった。瑛くんと長く一緒にいて、ケーキ食べたり綺麗なガラス時計見たり…本当に楽しかったよ?」

「あのさ……俺、おまえとならまた――――。」

「おぃーっす。オマエらおっせーんだよ。このハリー様を待たせるなんていい度胸してるじゃねーか。」

「わっ!!針谷?!」
「きゃっ!ハリー?!」

「てめぇら、戻ってくる時間くらい連絡して来いよな。まさかこのハリー様を忘れてたなんて事はねぇよなぁ?」

「うるさい。どこから湧いて出てきたん―――って。べたべたするな。うっとうしい!」

「あーん?命の恩人ハリー様に向かっていい度胸じゃねぇか。」

「誰が命の恩人だ!」

何を言おうとしたのか口を開きかけた瑛くんに被さる影。
よく通る声は聞きなれたもので、姿を確認するまでもなく私と瑛くんの間に割り込んだ人物の名前を同時に上げた。
瑛くんの首に腕を巻きつけているハリーは口調のわりに怒っている様子もなく、いつものどこか意地悪い顔のまま瑛くんだけを先に連れて歩く。

いつの間に近付いていたんだろう。
そもそも、どうしてここに居たのだろう。

二人の背中を見つめながら考えていると私の左腕に動く空気と地面に長い影が細く伸びた。

「あのね?今朝は4人でホテルを出たでしょ?帰りは二人だけじゃ困るかもしれないからって。」

「……困る―――かも?」

「だって、あの女の子達の中からハリーが無理矢理連れ出したじゃない?私とあかりちゃんは二人の後ろを歩いてたけど、見る人が見れば4人で行動するって思うでしょ?それなのにハリーじゃなくてあかりちゃんと戻ってきたら、余計な詮索されるだろって。」

「ハリーがそう言ったの?」

「ん。そうなの。ここで待ってたらあかりちゃん達がどの道から戻って来ても合流できると思って。」

隣に並んだ苗字さんがくすくすと笑いながら前を歩く瑛くん達の背中を見つめ私に話しかける。
学校での態度とは明らかに違う素の瑛くんの事も、ハリーがいるからだと認識しているようだった。

―――瑛くんが新幹線で話してたのは本当かも。

瑛くんが学校で見せるあの態度が何か理由があるとは分かっているみたいだけど、ここまで自然に違和感なくまるで私達をフォローする事などなかったんだもの。きっと苗字さんが機転をきかせてくれているんだ。

他の生徒の手前はっきりと拒絶する事の出来ない瑛くんがハリーにからかわれているのを、少しだけ後ろを歩きながらぼんやりとそんな事を思いホテルへと戻ったのだった。



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