「もしかしてさ、あいつの事が気になってるのか?」
「……?あいつ?」
「…針谷。おまえ…あいつの肩ばかりもってただろ。ホントは一緒に行動したかっ―――。」
「そんなわけないよ。だって、瑛くんと一緒に歩けるのすごく楽しみにしてたんだから。でも、瑛くんってばさっきからずーっとケーキばっかり見てるし、ここってすごくおしゃれだけど…なんか大人の女のひとばっかりで私に似合わない…し…。」
くるくると回すカップがソーサーに当たり、陶器独特の高い音がする。
すっと伸びた大きな手が影を作り戒めるようにカップの縁に被さった。
ゆっくりとカップがまたソーサーの上に落ち着くのをされるがままにじっと見つめていると、私の手ごと包むように大きくて温かい掌が重ねられる。手の甲から伝わる温かな体温がじんわりと広がっていく感じがした。
瑛くんの掌は、見た目の印象とは違い、いつも温かだ。
―――まるで小さな子供の手みたい。
そんな事をふいに考えながらその掌を見つめ続けた。
「だからさ、あの時は『どうしようか』なんて考えてただけで、別に困ってたわけじゃないんだし。だから針谷の助けなんて―――。へぇ……やっぱり京都ってだけあって、和のものが多いんだな?和菓子屋にお茶屋、漬けものか…。あと、食器…なんかこの通り歩くだけでも一通り揃いそうだな?……って、なにきょどってるんだ?おまえ…顔がヘンだぞ?」
「へ……瑛くん、女の子に向かってヘンなんて失礼すぎっ。」
「だって、ホントに百面相…つーか、観光なんだろ?ちゃんと見とかないとだぞ?早々来れる場所じゃないんだからな?」
「わっ…むぐっ…わはってるってば。」
「……ぷっ。やっぱりヘンな顔…。」
「もうっ!!」
「あははは。それ、ウマいだろぉ?」
重ねられた手が私の掌をすくい上げる。促されるように立ち上がってそのまま店を出た。
ハリー達と別れた通りまで戻ってきた私達は、繋いだままの手を離すことなくのんびりと立ち並ぶ店先を冷やかすように覗き込んでいる。
私の足に合わせるようにゆっくりと歩く瑛くんは、誰かに見られるかもなんて考えてもいないのか、普段とは違い興味深そうに店の中を覗き心底楽しんでいるのが分かる。
そんな瑛くんとは反対に、同級生に見られるんじゃないかと辺りを気にする私の足は当然遅くなり、ついでに意識も散漫になりがちで、いぶかしげな声のわりにはいつもと同じからかう言葉に反論しようと開けた口に、試食の漬けものを突っ込まれていた。
3.