10.

「バカ。声出したらバレるだろ。」
「ふふふん…!」

屈み込むように腕を伸ばすのは、今、耳に当てた携帯で話していた人物。
その証拠に彼の右手の中にも開けられたままの携帯。
座った私に合わせ、背を丸めて屈み込んだ状態の彼の表情は窘めるように眉を寄せている。

少し怒ったような声だけれど本気ではないのが分かる悪戯が成功したというような楽しそうな瞳と笑った口許。

「ホントに誰もいないんだな?ここも。」

ひょい、と、半階下の女子生徒が宿泊する階を覗いた瑛くんが私の口を塞ぐ手を離し、ぱちと携帯を閉じて隣に腰を下ろす。

突然ともいえる状況に驚いたまま瑛くんを視線で追いかけ、ふと浮かんだ疑問が口から零れた。

「……ここも…?」
「ああ。今まで俺も階段にいたんだよ。こんなとこに来る奴いないし。」
「そうだったんだ…。」
「そのかわり、部屋とかはすごい事になってるけどな?」
「すごい事?」
「そ、すごい事。こういう時のお約束、だってさ。それで避難してたんだけど、一人もつまらないだろ?だからさ…。」

呆れたような苦笑いの瑛くんの言葉の意味が分からず、首を傾げながら俯き、まだ開いたままの携帯を指先で引き本体を持つ手の中に収める。

語尾を濁す瑛くんの腰が私の腰に当たり、どうしたんだろうと触れ合った場所に目を向けた。
ふわと首筋に巻き付く体温に引き寄せられ胸の中に収まる。

「て、瑛くん。こんなとこでだめだよ。」
「なんで?」
「ひ、ひ、人来るし…!」
「来ないだろ、こんなとこ。」
「そんなの分か―――ん、っ…!」

じわじわと近付く瑛くんの整った顔に、うろたえながらも逃れようと身体を反対に傾けるけれど、回された腕に引き寄せられ、そこから伸びた手が視界の端でぴくと動き、指先で顎を持ち上げられた。

間近でぼやける独特な瞳の色。そのままゆっくりと近付き、柔らかな唇が重ねられる。

一瞬固くなる身体、頭に浮かぶのは今までの経験。

こういう時の瑛くんは、何故か有無を言わさぬ強引さがある。

でも、ここは公共施設。
しかも学校行事の真っ只中。

誰かにバレたら瑛くんの身の上が危ない。
……どころか二人とも危ない。

どこかで流れた噂くらいなら笑ってごまかせるけど、こんなとこでなんて決定的すぎて無理に決まってる。


でも……少しだけ。...11へ

やっぱり……だめ!...14へ



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