9.

『今日回ったとこの説明をメモしたんだけど、帰ったら忘れそうだから整理してるの。あ、もしかして、明日はダメになったの?親衛隊さん達に捕まっちゃった?』

すぐに返信画面を呼び出し、少し考え、頭に浮かんだ事を問い掛ける。
そうだとしても気にしないから、なんて、思ってもない事をさも明るいニュアンスで。

瑛くんから先に言われるよりは自分から聞いた方ががっかりする事も少ないはずだから…きっと。

―――やっぱり…ダメになったって返ってくるんだろうな。

自己防衛のようなメールを送った事を少しだけ自己嫌悪しながら溜め息をつき、ぎゅっと携帯を握りしめ返事を待つ。
長く感じる数分間、携帯画面を睨みつけていると、再びぶるると震え画面が明るく灯った。

『今、話せるか?』

またも簡潔な言葉は電話をしてもいいかという事なんだろう。込み入った内容なんだろうかとテーブルの上を軽く片付け辺りを見渡す。

楽しそうに雑談するクラスメートは私の事など気にしてはいない。
でも、万が一、興味を持たれたり、私がうっかり名前でも呼んでしまったら後が大変だと、そっと気付かれないよう立ち上がり部屋を出た。

楽しそうな笑い声がどの部屋からも漏れ聞こえてくる廊下を人目の付かない場所を探して奥へと進み、見つけた階段を半階分だけ上がる。

ほとんどエレベーターしか使わないせいか静かなその場所に、ここなら大丈夫そうだと二段目の階段に腰を下ろし携帯を広げた。

画面を明るくさせるのは履歴から呼び出した瑛くんの番号。

いきなりかけても大丈夫かな――。

瑛くんも部屋からメールしてたのかもとふと頭に浮かべながら指をかけた瞬間、震え出した携帯に慌てて通話ボタンを押し耳に当てた。

『遅い!』
「だ、だって。部屋だと誰かにバレちゃうかもだし。」
『それなら一言くらい送ればいいだろ。』
「そ、それもそうなんだけど――」

私が口を開ける間もなくきっぱりと告げられた言葉に、ますます慌てて携帯を持ち直し反対の耳に当てる。

アタフタと慌てふためく私が見えているのか、小さく噴き出した瑛くんがくすくすと笑う声がすぐそばにいるようで、何だか擽ったくて頬が熱くなった。

「―――そんなに笑わなくていいじゃない。」
「プッ…。だってさ……ぷくく…――なあ、おまえさ、今…どこ?」
「……え?今?えっとね?階段…半階だけ上がったとこ。」
「―――階段?」
「うん。誰もいないし静かだから。」
「誰も―――?」
「んー…、ここ、気付いてないかも。それに、エレベーターがあったら階段なんて―――」

移動手段はバスだったとはいえ、一日中歩き回って疲れたんだし『わざわざ使わないよね?』と言いかけた瞬間目の前に飛び出てきた人影に、心臓が止まるかと思うくらい驚き、声を上げようと開いた口をその人影から伸びた手が塞いだ。



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