8.

京都に到着し、クラス毎に大型バスに乗り込みあちこちを回っている。

クラスメートでもある瑛くんはもちろん同じバスだけれど、ここでは男女別に分かれた上、出席番号順のため座席は少しだけ遠い。
わざわざ後ろを向いてまで確認したりはしないけど、隣りは男の子なんだから安心して座っているんだろうなーなんて後方に意識を向けながら、事前に渡されていた資料を捲っていた。

旅行なんて名前が付いていても観光旅行ではなく修学旅行。帰ってからレポートの提出が待っている。

ここまで来るまでにガイドさんの説明をあちこちに書き込んだりしているけど、なにがどの部分でどんなものだったのか、すでに頭の中の許容範囲は超えているらしく思い出せなくなってきている。

このままなにもせず家まで帰ったらきっと全部忘れちゃう。せめて今のうちに書き込んだメモの特定だけでも。
ホテルに着いたら、改めてノートに書き写しておこうと情緒のある窓からの景色にも目を向ける事なく必死に資料に目を通していたのだった。

―――やっぱり……無理かも。

食事もお風呂も終え、みんながそれぞれくつろぐ自由時間。
部屋の真ん中に置かれた立派な座卓に広げた資料と大学ノートを前に固まっていた。
ひとつ頭に入れるとひとつ零れ落ちていたらしく、最初の方に行った場所なんて、うっすらとしか記憶にない。

「千代美ちゃんとかなら分かるかなぁー。」

頭に浮かぶのはひとりの同級生。普段から真面目で几帳面な彼女なら、こんな机に向かわない授業で、しかもノートじゃなく資料に書き込んでても、分かりやすくメモしているに違いない。

全部を教えてもらうつもりはないけど、この資料の余白に散りばめられた文字がどこの、どの部分の事なのか。

それだけ手伝ってもらえたら十分だと、部屋の隅に置いてあるバックから携帯を取り出した瞬間手の平の中で小刻みに震え出し、びっくりしながらも閉じられた携帯のサブディスプレイを見つめた。

―――瑛……くん……?

映し出されたメールの差出人の名前に、どうしたんだろう、もしかして、明日の自由行動が女の子達にバレて駄目になったとか…そんな嫌な事を頭に浮かべながらかちと画面を開いてみる。

『今、なにしてるんだ?』

一行だけの簡潔なその文面は、私の気持ちとは反対にどこか軽いものだった。



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