ショーケースを机に見立て、店の奥に苗字、こちら側に井上、二人を向かい合わせにして座らせ、オレは井上の横に立っている。
ガラス面のケースの上にはアマチュアバンドが時々置いていくライブ告知のチラシ。
その裏に、オレの頭の中に浮かぶ音楽室の間取りと構図を書いていく。
「―――ってな感じにしてぇんだよ」
「なるほどねん。ってぇ事はぁ……」
井上の喋り方はマジ、ウザいけど、客観的に見るため、そして位置取りを決めるには第三者が必要。
オレの手からひょいとペンを取り上げ、線を書き足していく。
「これくらいの窓っしょ?だったら、こんな感じでこの角度で見ればいいって事」
「なーる」
「で、コウがここに座ってぇ……」
立ち上がった井上が、オレの肩を持ち椅子に促す。
「なんでオレ様なんだよ」
「だって、コウがやるんでしょ?」
キョトンと見つめられ、それもそうかと丸い椅子に跨るように腰掛けた。
井上は斜め後方の位置を確認しながら離れていく。
あちこちに楽器だのなんだのがある店は広くなく、忠実に再現する事は難しい。
「オッケー。この角度だな?」
「そうそう、コウがそれくらいの中腰だと、この角度でバッチリ。距離を伸ばしても大丈夫だと思うよん」
椅子から少しだけ腰を浮かせた状態で斜め後方の井上に顔を向ける。
井上は親指と人差し指を丸くして合わせ、満足そうに頷いていた。
浮かせていた腰を下ろし直して頬杖をつく。
さて、どうやって意地っ張りなアイツを引きずり出すか。
確実に二人を捕まえられて、尚且つこっちも準備が出来るのは昼休みしかないが、有無を言わさず呼び出すとなると、携帯一択しかないように思えた。
「それにしても、コウにまで世話を焼かせるって相当だね」
「んあ?ああ、相当っつーか、紛れもねぇバカだな」
「違う違う。相当仲いいんだねぇって言ってるの。コウにそんなお友達だなんて……かぁさん嬉しくって……」
「バッ、バカ言ってんじゃねぇ!しかも、誰がかぁさんだ!気色わりぃ!」
考え事を始めるオレの横に立ち、制服の袖口で涙を拭うフリをしながら芝居口調の井上の頭を、傍にあった音楽雑誌で叩く。
店内に響く苗字と井上の笑い声。
こうやってからかわれるのもやっぱりアイツらバカコンビのせいだから、決行は明日にすると心に決めたのだった。
4.我ながら完璧な舞台設定