「ね?ね?苗字さんにもそう見えたデショ?じゃあ、次はコウが驚く番ね?」
「はぁっ!?イミ分かんねぇっつーか、なんなんだ!」
「いいからいいから。百見は一聞に如かずって言うデショ。いーよーって言うまで入っちゃダメだよん。」
やけにノリのいい井上に腕を取られ立ち上がらされる。
そのままケースを回り込まされ、店の外へと追い出された。
人差し指を立て、リズミカルに横に振る井上の楽しそうな顔が余計にムカつく。
「―――絶っ対ぶっ飛ばす!」
苛立ちは許容範囲越え。
通りを行き交う人々の視線も気にせず、店のエプロンを着けたまま身体は正直に…いや、片足は正直にビートを刻むようにアスファルトを叩く。
当たり前だが笑顔なんて出ねぇ。
怯む通行人から察するに、相当般若顔だ。
しかし、これは井上が悪いせいで、オレ様が悪いわけではねぇ。ノープログレムだ。
「のしーん!入ってい〜よぉ〜。」
間延びした呑気そうな声が店内から聞こえる。
頂点だったイライラが限界を軽く越え、大きく息を吸い込んだ。
「テメェ井上!いったいなんな―――!!!」
扉が開くや否や井上に向かって大声を上げる。
が、目に飛び込んで来た光景に、その言葉は最後まで続かず、思わず立ち尽くした。
「ね?びっくりどっきりっしょ?」
振り返った井上の嬉しそうな笑顔。
確かにこれは―――。
そこで、頭の中に激ニブコンビの顔が浮かび、思わず口許が緩む。
似た者同士ともいえるくらい頑固で意地っ張りなあいつらは、どれだけ向き合えと言ったところで、素直に従うわけもねぇし、突っ込めば突っ込むほど、とんちんかんな方向に想像力を働かせて泥沼にハマるのがオチ。
だったら、自分から動かなきゃなんねぇって思わせるのが一番手っ取り早い。
つまりは、頭で考えて行動させるんじゃなく、衝動的になるくらいの物を与えればいい。
囮はモチロンあかり。
今までのアイツを見てれば、簡単すぎるくらいだ。
ゼッテェ引っかかるに決まってる。
なんせ、バカだから。
―――オレ様、マジ天才。
「ブッ……アハハハ!やべー。オレ、マジやべー!」
「ちょ、コウ、どうしちゃったのよ。苗字さぁん!コウが気持ちワルいよぉ」
「ウルセェ井上。そんな事より、ちっと手ェ貸せ!」
頭の中に浮かぶ光景は間違いなくアイツが食いつくもので、やる前から成功したのも同然。
そして、それをカタチにするため、井上と苗字を実験台にシミュレートを始めた。
3.我ながら完璧な舞台設定