2.我ながら完璧な舞台設定

「冗談はおいといて。ハリーは何に悩んでるの?最近変だよ?」
「ああ?別にそんなんじゃねぇ―――。」

オレ様のどこがヘンなんだと言いかけ、そういえばこの間はアイツのせいで話が反らされたんだと思い出した。
床を蹴って椅子の足を転がしまた元の位置に戻ると、さっきと同じようにケースの上に顔を突き出し、苗字と向かい合う。

「苗字。」
「な…なにっ?」

コイツ一人なら茶化すような事はないと思うが、こっからはマジな話。

真顔で口を開こうとした瞬間、自動ドアの開く機械音と同時に人を小馬鹿にしたようなのんびりとした口調の、それでいて素っ頓狂な声。

「お母さんはのしんをそんなふしだらな子に育てた覚えはありませ〜ん!」
「ウッセェ井上!!誰がお母さんだ!っつーか、なんだそのカタコトの外人みたいな話し方は!」

顔を上げるまでもなく誰か分かる声に、握り拳を強く握り締める。

―――せっかくマジな話をしようとしてたのに!

どういう訳かいつも絶妙なタイミングで現れる親友とも悪友とも形容しがたいヤツに顔を上げた。
相変わらずなんの悩みも無さそうなヘラヘラとした笑みを浮かべ近付く井上。

―――マジぶん殴りてぇ……!

そんなオレの気持ちを察したのか、能天気な笑顔のまま苗字の隣に立ちケースに肘ついた。

「でもさ、コウ?今のはホントにマズかったよ?」
「ナニがだよ。」
「ほら。あの入り口から入るでしょ?んー…、目は口ほどに物を言う、かな?苗字さん、俺がさっきのを再現するから入り口から入って来て?」
「う…うん。分かった。」
「ことわざがぜんぜん違ぇよ。っつーか、顔が近けぇ!」
「まあまあ。………苗字さんいーよー!」

苗字を押し退け、自動ドアを指差す井上。
不思議そうに首を傾げる苗字がドアの向こうに消えると、俺の両肩を押さえ自分も同じ高さで顔を見合わせ苗字を呼んだ。

「あーーーっ!!」

ウィーンと自動ドアの開く音と同時に叫ぶ苗字。
店の中に響き渡る程の声量に眉をしかめた。

「苗字ウルセぇ!」
「だってだって!凄い光景見ちゃった……って事は、井上くんから見たら―――ええっ!?」

なんでか分かんねぇが、やけに興奮した苗字が小走りに近付いて来て早口で捲し立て、自分の言葉で何を想像したのか両手で口を覆う。
オンナのキンキン声は頭に響き、耳に指を突っ込みながら訳が分かんねぇと口を開こうとした。

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