佐伯の雰囲気が変わった。
どこをどうとはっきり分かるものでもねぇが、取り巻きに囲まれてる時の一瞬の間合いとか、取り繕う瞬間の表情とか。
上辺だけで付き合うヤツらには到底分からないくらいの微々たるものだろうが、短時間で素顔らしきものを見てきたオレには直感で分かった。
そしてつい最近にもあった変化。
それは佐伯一人のものではなく、そして、前に感じたものとは違いあまりよくねぇもの。
ただ、今回のものは佐伯がというより、もう一方がより顕著に現れているのだった。
「っつーか。ヤローの変化なんて気付きたくねぇっつーの。」
ガラスケースに肘を付き、顎を乗せていた腕をだらりと伸ばしてガラスに突っ伏し溜め息をつく。
額にはひんやりとしたガラスの感触。
自分の息で曇るガラスの中には、有名バンドのサインが入ったギターピックやドラムスティックだのが、これらの持ち主であるメンバーと、この店の主である店長が写ったポラロイド写真と共に飾られていた。
「だらしねぇツラだよな…オレらが揃ってる時にはこんな顔しねぇくせによ。…いつか、ぜってぇさせてやる。」
中央に写るよく見知った顔は普段から自分達には人懐っこい笑顔を見せるが、それとは全く別の憧れやら興奮やらが入り交じったような、自分達には見せない笑顔で、只のアマチュアバンドとの格差をまざまざと見せ付けられるような気がして、胸の奥がチクリとする敗北感に眉を寄せて、それから目を反らすように瞳を閉じた。
「……またサボってる。」
「……うわっ!!」
「ひどっ!そんなに避ける事ないでしょー?」
「てめえが目の前にいるからだろーが!気配消すんじゃねぇ!」
それだけでは足らずに顔を上げてガラスケースに顎を置き、ゆっくりと瞼を開けると目の前には同じようにケースに顎を置いた苗字の顔。
理解出来ずに見つめ合うことコンマ数秒。
苗字の瞬きで揺れる、思ったよりも長い睫毛に自分達の近さを思い知り、がばりと身を起こすと、ケースを思いきり押して座っていたコロ付きの椅子と共に後退りした。
ガンと椅子の背にある軸の金属が後方にあるレジ台に当たり大きな音を立てて止まる。
それ以上は下がらないとは分かっているものの、まだ離れた距離が足りなくて身体を仰け反ると、驚いたような顔をする苗字が頬を膨らませてオレを睨んだ。
「だって。動かないから眠ってると思ったんだもん。」
「寝てねぇ!っつーか、万が一寝てたとしたら覗き見なんて趣味悪ぃだろ!」
「こっそり写メして、ライヴの時に表で売ったら儲かっ……。」
「テメェ…ほんとに悪趣味だぞ…。」
「冗談ですー。仕事中に携帯は持ってませーん。」
ケースに両肘を付き、掌に顔を乗せる苗字の冗談なのか本気なのか分からない呟きに、どんな事があってもぜってぇコイツの前で寝たりなんかしねぇと心の中で悪態をつく。
1.我ながら完璧な舞台設定