3.見てるこっちがハラハラ

「なあ。オマエもオンナだったよな?ちょっとツラ貸せ。」
「……ハリー?だったよな?は余計です。それに目の前にいるんだからツラは変です。頭、もしくは知恵を貸せの間違いです。」

こんなに近けぇとこに適任者がいるじゃねぇかと、腰を浮かして立ち上がり椅子を回転させて座り直す。
背もたれを抱えながら苗字を見上げると、ぴくりと眉を動かした苗字がにっこりと笑った。
しかも、普段は使いもしねぇ敬語で。

「んだよ。ちょっとした言葉のアヤ――っつーか。オマエに話してあったか?」
「聞いてないよ?でも、ハリーが考え事してるなんて珍しいもん。なにかあったのかなーって思うでしょ?」
「オマエも珍しいは余計だっつーの。それより、好きなヤツいるか?」
「―――はあっ?!なにいきな――。」
「ひゅー。のしんくん、春だねぃ。」

苗字の言葉は引っ掛かるものはあるが、それは今は置いといて。
ちょっとでも参考になりそうな、取っ掛かりになりそうなヒントでも引き出そうとする俺の背後から聞き慣れたマヌケ声。
振り返らなくても能天気なツラまで頭に浮かぶ。

「……井上。のしん言うな!」
「じゃあ、はりたん。」
「いーのーうーえー!!」
「もう、そんなに怒らなくてもいいじゃ……あ、苗字さん、こんちわー。」
「こんにちは。学校の帰り?」

くるりと椅子を回転させればやはり能天気な顔をした井上。
学校帰りなのか、脇に抱えたカバンをショーケースに置き、人懐っこい笑顔を苗字に向け世間話を始める。

てめぇ…オレを無視してるだろ。

じろと睨み付けると、わざとらしく驚いた顔を見せた。

「あっ!そういえばコウは苗字さんに聞きたい事があったんだよね?俺の事は気にしないでどうぞどうぞ。」
「白々しいんだよ。っつーか、オマエはお笑い芸人か。」
「やだなあ。お邪魔虫だからって、そんなに冷たくしなくていいじゃん。俺はコウを愛してるのにー。」
「ウッセェ。気色のわりぃ言い方すんな。―――で、苗字?」

両腕を広げ抱き着こうとする井上を虫を追い払うように遠ざけ、苗字に向き直ると、掌で口を覆い声を殺していた。
が、肩がかなり上下しているし、ひきつった声が漏れている。

prev 3/6 next
しおりを挟む/しおり一覧

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -