5.いい加減くっつけ
本当にこのオトコの鈍感さは天性のモンなのか。
無意識下でそれを避けているモンなのか。
お世辞にもアタマがいいとは言えねぇオレには到底分かりっこねぇんだけどよ。
「じゃあ行ってくるね?」
西本からの電話になんの疑いもなく音楽室を出ていくあかりの背中を見る佐伯の目。
「……どっちが目当てなんだよ」
あかり宛てのラブレターを読んだ時の嫌悪感に満ちた声。
ちょっとからかっただけでこれだけボロボロと俺にでも分かる態度を示すくせに、自分自身はそんな矛盾すらこれっぽっちも感じてないときたもんだ。
まぁ、本人達はどうであれ周りが勝手に動き始めた事だし、これでちょっとは変わってくるのかもしんねぇか。
観客として見てるのも悪くはねぇんだけど…エンディングが分かってるB級ロマンス映画みてぇなのがちょっとな。
思った事が言葉として口に出るオレに、問うような目をして一瞬振り返る佐伯の心は既にここにはなく。
あかりの元へと向かっているのを確認すると、早く出て行けとばかりに手の甲で合図し佐伯を音楽室から追い出す。
「ボケボケしてないで頭使って考えろ。いい加減にしねぇとオレ様が黙ってねぇぞ。」
ぽろりとギターを奏でながら閉まった扉に向かって小さく呟いたのだった。