2.見てるこっちがハラハラ

「ねー、ねー。どうかしたの?悩み事?」
「んあ?べーっつにー?」
「べーっつにーじゃないでしょ?雑誌、反対だよ?」
「あ?……こうやんねぇとギターがちゃんと見れねぇんだよ。」
「ふぅぅぅん。」
「ウッセ。いいから仕事してろ。」
「はいはいはいはい。」

今日はバイトの日。
同じバイト先の仲間である苗字は先に来ていて、相変わらず客のいない店内をはたきを持ってうろついていた。
店長は苗字が来たのをいい事に外に茶をしに行ったらしく。
まあ、いつもの事だしと客が座れるよう置かれた長椅子に足を放り投げ、コロ付きの椅子に座って今月号の音楽雑誌を読みふけっていた。
苗字に指摘されて気付いた逆さまの雑誌は、百歩譲ってもアイツらが心配だったからじゃねぇ。
そのアイツらである佐伯とあかりは学校近くで置き去りにしてオレは先に帰ったんだが…帰り際のオレ様の助言をあかりはぼんやりなりに考えて気付いたんだろうか。

「―――気づくわけねぇわなぁ…。」

一言二言で気付くくれぇなら、とっくの昔にどっちかが気付くはず。
いくらニブちんでも男と女。なにかしらお互いを意識するような…。

「事があったはずなんだけどなー。」

あかりに対しての佐伯の何気ない態度や、時々妙に意識したあかりの表情で二人になんかあったっつーのは分かるんだけどよ。今一歩も二歩も進展した様子が感じられなくてもの足りねぇんだ。
ガチャンと背もたれに思い切りもたれて開いたままの雑誌で顔を覆う。

「もー。遊んでないで仕事しなきゃ。お給料もらってるんだよ?」
「んあ?オレ様は思考にふけりながら曲作りをしてんだよ。それに、仕事するにも客がいねぇ。」
「お客さんがいなくてもお仕事はあるんですー。――って、さっきからブツブツ独り言ばっかり言ってるけど、悩み事でもあるの?珍しく。」
「珍しくは余計だっつーの。オレ様に悩みなんて―――。」

顔を隠したままだらしなく座り、長椅子に置いた足を踏ん張って膝の屈伸で自分が座る椅子を前後に動かしながら、そこら辺にいるはずの苗字に「ねぇよ。」と言いかけて、こういう事は男であるオレよりも、女の方が得意なんじゃねぇかとがばりと身を起こした。
弾みで雑誌が顔から落ちるのを片手で受け止めながら、足を蹴りだし自分ごと椅子をくるりと回す。
そのまま床を片足で蹴るとショーケースの前にいる苗字まで一瞬で辿り着いた。

prev 2/6 next
しおりを挟む/しおり一覧

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -