6.見てるこっちがハラハラ

「ははーん…あれからなんかあったな?」

オレが別れ際に言った言葉がすぐ通じるとは思えないが、あかりの事だから佐伯に話して二人して考えた可能性はある。少しだけでも進展したかもしれねぇとヘッドホンを剥ぎ取り、開いた携帯の通話ボタンを押した。

「ハリーのばかぁぁぁぁ!」

耳に当てようと腕を上げる間に聞こえてくる八つ当たり的な叫び声。
それは怒号と言うよりは佐伯に弄られている時の半べそ状態に近く、期待していた通りではなく、相変わらずの光景が繰り広げられた事が分かったものの、いきなりなんだっつーの。オレは何もしてねぇだろと耳に当てた瞬間肺を膨らませるように深く息を吸い込んだ。

「ウッセー!!何時だと思ってやがるんだ!」

「だって!ハリーがあんな事言うから!」

大抵の女ならこれだけ不機嫌に怒鳴ればビビるだろうが、普段から慣れているあかりには通用しない。
だからこそ、変に気を使ったりしなくてすむわけだが。
その当の本人はやっぱり俺の声に臆する事なく、あれから佐伯に酷い目にあった、頭ばかり狙われてバカになると泣き言を続ける。

優等生ヅラしたアイツがそんなガキっぽい事をする相手はコイツしかいなくて、それはかなり特別だぞ、それでも気付かないのかよとか。
オマエもオマエでそれが心底嫌な行為ならそうやって一緒にいるなんて事はしねぇだろ。っつーか、オレからすりゃあじゃれあってるくらいにしか見えねぇしとか。

そんな風に呆れ返りながらも、ぼんやりなあかりが佐伯にこれでもかと頭に攻撃を受けている姿を浮かべ笑い転げていると、やけにエコーがかった声と不自然な水音に気が付いた。

「……オマエさ、今、もしかして風呂入ってるか?」
「やっぱり分かる?エコーかかってるみたいに反響するよね?お風呂って。」
「…………。」
「ほら、カラオケボックスみたいな感じでしょ?お風呂で歌うと上手になった気がするんだよね、ハリーには勝てないけど。」

屈託のない声にコントでよくあるシーンのようにずると体勢を崩す。
わざとなのか大きくなる水音に、止まった思考が動き出して無意識に大きな溜め息が出た。

―――これが素なんだから、色恋なんかに気付くわけねぇ。

佐伯もだが、こいつにもしつこいくらい誰かが突っ込まねぇと高校生活が終わるどころか、もしかしたら一生このままかもしれねぇ。

簡単に未来予想図が頭の中で繰り広げられ、ガラにもないくらいお節介だが、こんなヤツらを間近で見続けたらオレ様の繊細な心がもたねぇと今度は自分自身に溜め息をつきながら口を開いたのだった。

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