5.見てるこっちがハラハラ

散々だったバイトも終わって家に帰るなりソッコーで風呂に入る。
オレは肉体労働派じゃねぇんだから、纏わりつくような汗がとんでもなく気に入らねぇ。
それもこれも井上の、いや、根本の原因である激ニブコンビのせいだと、風呂上がりの一杯である牛乳を一気飲み干した。

「なになに?今日の晩メシはー…。」

居間にある布団が取り除かれたコタツの上には傘のような虫よけのネットカバー。
その前には遅くなるので先に食事してくれとのメモ書きがあった。
仕事柄色々な付き合いがあったりする彼女だが、こういう事は手抜きをしない。
適当にそこらにあるものですますと言った所で、男勝りな性格の彼女に反対に言いくるめられるので、好きにさせていたりする。

「肉じゃがに焼き魚…魚は冷めると旨くねぇんだっつーの。」

カバーを外すし並べられている夕飯にがっくりと肩を落とす。
残そうものなら雷が落ちるのは確実。
仕方なく台所へと飯をよそいに行きテレビをつけながら座る。
適当にあちこちとチャンネルを変えると、チャラチャラとした名前も知らないアイドルが、テレビ画面の中で下手クソな歌らしいものを歌い、踊るのに行きついた。
冷めた魚が余計にマズくなるが、他に適当な番組もなし。
仕方なくBGM代わりにしながら掻き込むようにメシを済ませると、さっさと自分の部屋へと避難しアンプに繋いだギターを取り出す。
ヘッドフォンを着け自分だけの世界を作る事は落ち着かない気分を鎮めるのにうってつけ。
誰の事も気にせず思い切り掻き鳴らすのが一番だが、さすがに真夜中にそんな事をする程常識がないわけではない。

「………あ?誰だ?こんな時間に。」

ベットにもたれかかり指先を思いつくままに動かし始め暫くすると、目の前にあるミニテーブルに置いた携帯が振動で揺れていた。
ヘッドホンを着けているせいで着信音は聞きとれないが、最初にあった場所から多少動いているのを見る限り、かなり長く鳴っていたのだろう。
こんな時間にしつこくかけてくるのは井上かあかりくらいしかいねぇと手に取ると、案の定頭に浮かべた片方の名前がサブディスプレイに浮かんでいた。

prev 5/6 next
しおりを挟む/しおり一覧

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -