1.いい加減くっつけ

修学旅行まであと数日。

浮かれ始める生徒達の中でうんざりだとばかりに暗い影を落とすのはこの二人くらいだろう。
こういう事に関して手慣れた佐伯でさえ、この音楽室にいる時は疲れた顔を見せる。

まあ、いつもスカしてやがるコイツの、こんな疲れ切ったジーさんみたいな顔を拝めるのは、この羽学の中でもオレ様くらいなんだろうと思うと、変な優越感のようなものが湧いてきて顔を窓に向けた。

「……なんだよ、ニヤニヤして」
「バーカ、ニヤニヤなんかしてないっつーの。それより、ここでそんな辛気臭い顔なんてしてんなよな。せっかく!この!オレ様が!オマエらに聞かせてやってるギターの音色が錆つくだろ?」
「意味わかんないし」
「…………はぁ……」

びしりびしりと人差し指を突きつけると、頬杖をついた顔をわざとらしくむっつりと歪ませる佐伯と、その真横に椅子を寄せて座る、上の空とばかりのあかりの深い溜め息。

今、降りかかる現実が、日常と非日常を強く表わしていて、腰かけた椅子の背から尻を滑らせながら座り直し、ギターを抱えた。

「だーかーら。この前から言ってっだろ。オマエらがくっついた事にしたら万事解決、平和な日常、ってな?今みたいなジーさん顔とか、幽霊顔もする事もナシ。大手を振って歩けるだろーが」
「……じいさんとは俺の事か?……どうやらチョップの出番らし―――」
「ぜっっったいヤだもん!今も大変だけど、瑛くんの親衛隊さん達の方がもっと怖いもん!」
「……あかり。どうやらおまえも俺のチョップを受けたいらしいな……」
「どっ、どうして私まで瑛くんのチョッ……ぼ、暴力反対!あっち!ハリーに!なんでしょっ!?」
「オマエら……。ちゃんと人の話聞けっつーの」

肩の高さで右手を手刀の形にし、決めゼリフよろしく俺を睨む佐伯を遮り、髪を振り乱すほど首を振るあかり。

途中で遮られた事が気にいらなかったのか、羽学一のプリンスと呼ばれる佐伯が、普段有り得ないくらい底意地の悪い笑みを浮かべてターゲットをオレからあかりに変える。

いつも餌食になっているあかりが青ざめた顔でそれを受けないように頭を片手で押さえ、もう片手でオレを指差しながら必死に訴えているのを眺めながら「コイツら本当にバカだ」と溜め息をついた。

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