夕焼け小焼け

赤がいくえにも重なったようなグラデーション。

夜明けとはまた違う色彩。
何かが新しく生まれるような、生まれ変わるような…そんなイメージを持つような空ではなく、暖かいような…少し物悲しいような…泣きたくなるような。

そんな空を見上げながら俺は今、遊園地の片隅。人通りもさほど多くない場所のベンチにぐったりと腰掛け空を仰いでいる。

アスファルトの熱がまだ残り、息苦しくもあるこの場所にいる理由。

…………それは……。

「お待たせー!!買ってきたよー!はい!お水!」
「…………遅い!!」
「いった!……もう!せっかく買ってきたのに!チョップばっかりするならあげないんだから!」

覗き込むようにペットボトルを差し出すあかりの間が抜けたような笑顔に、思わずだらりと下ろした手を伸ばし高速で手刀を入れると直撃した額を押さえて頬を膨らませる。

これくらいするのなんて当たり前だと引ったくるように奪い喉を潤すと、身体の中まで染み渡り蒸し暑さが冷やされるようで心地がいい。

大きく溜め息をつきながらボトルの底で額を冷やすと、隣に腰掛けたあかりが視界の端に映る。

「………相変わらず嫌い、だよね?……お化け屋敷。」
「………分かってるのなら連れてくるな。」
「だって……夏を満喫、するんでしょ?」
「バ・カ!こんな事しなくても満喫くらい出来るだろ。」
「だって……今年は来てないもん。だから満喫じゃないの!まだ終わらせないの!」

微妙にいつもとは違う声のあかりに気付きながらも瞼を閉じてじんわりと冷やす丸い底に意識を向けていると、突然荒ぐ声。

額の安らぎを奪われ思わず驚いて瞼を開ける。

「……ど、どうした?急に……。」
「休憩はおしまい!ほら!満喫しに行こ?」
「どこへだよ?まだ何か乗るのか?」
「もう!夏の遊園地と言えば一つしかないでしょ?最後なんだから、絶好の場所から見るの!ほら!早く早く!」

俺の腕を取り体重ごと引っ張るあかりに無理矢理連れて行かれながら首を捻る。

夏の遊園地、今日で最後、絶好の場所。
そして、落ちていく太陽、紅く染まる空とあかりの髪。迫り来る夕闇。

「あ、なるほどな。」
「やっと分かった?思い出、作りに行こ?」
「……了解。だったら…さっさと行くぞ?あれは場所が肝心なんだ!」
「わ!……もう!今までへばってたくせに!」

あかりの言いたい事が漸く分かり、取られていた腕を引き抜いてその小さな掌を包むように繋いで先を歩き出すと、慌てながらもくすくすと笑いながら着いてくる。

さっきまでとは違い今度は俺があかりを引っ張りながら、空気までも紅く染まるような世界……光輝く思い出が作れるその場所へ足を早めるのだった。

【朝焼けの出迎え ACT.3】
瑛×主

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