流れる雲を追い掛けた

「じゃあじゃあ早速!ねぇ、どっか行こ?夏らしいとこ!」

さらう波が足元を擽り通り抜けると、繋いだ手にもう片方の掌を添えあかりが引く。何かを思い付いたというような輝く瞳。
今にも走り出さんばかりに勢いよく、ぐいと俺を引く。

「ちょっ、どっかって……どこだよ?夏らしい場所なんてそうそうある訳……。」
「あるでしょ?夏らしさを堪能出来て、絶対忘れない思い出が作れる場所!」

早く早くと渇いた砂の上、濡れた足に白い砂が纏わり付くのも構わず、楽しそうに俺を誘う。店の脇、小さな蛇口がついた水道で足を洗う間中、答えを問う俺に『だーめ。ナイショなの。でも絶対夏って感じなの!』と首を振り続けるあかりに根負けし、諦めて従う海岸沿いの道。照り返すアスファルトの熱はまだ暑く、何を考えてか先を急ぐあかりに手を引かれ額に汗を滲ませて歩く。

「……バス停?……これに乗るのか?今からどこへ行こうって―――。」
「いいから、いいから。ほら!来たよ?バス。」

タイミングよく目の前に現れる熱気を吐き出したバスの扉が開き、待ってましたとあかりがステップに足をかけ躊躇う俺ごとバスに乗り込む
ちらりと見えたプレートに書かれていた文字に、一瞬疑問符を頭に浮かべてみるけれど、それを口にする前に動き出したバスに揺られ、空いていた後ろの席を二人で陣取った。

「見て見て?綺麗だよねぇ…海。光が反射して。それに…雲も綺麗なの…ほら。」
「ホントだ。海が綺麗なのは当然だけど…風に流れてる、のか?雲。」
「そうなの。雲を追い掛けてバスが走ってるみたい、だよね?」

真っ直ぐ伸びる白い雲に引き寄せられるようにバスが走り、どこまでも伸びるそれは、まだ濃い緑の山の向こう。見えない先へと続いていく。まるで未来を示す真っ白な道のように。

不規則に揺れるバスの中、煌めく海を背に楽しそうな笑顔のあかりと身体を寄せ合い小さな声で会話を続ける。
最初は乗り気じゃなかったくせに、まだ味わうのだろう夏の時間がなんだか楽しみになってきてる俺ってかなりげんきん過ぎるよな、なんて思いながら、正面の大きな窓ガラスに伸びる真っ直ぐな雲を見つめ、気付かれぬように苦笑いを浮かべたのだった。

【朝焼けの出迎え ACT.2】
瑛×主

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