さて、どうすっかなー?

昼休みの音楽室。
机に広げられたのは、ファンだと名乗る女からのチョコ。去年までは意味もなく嬉しくて、数が増えれば何故か誇らしくて。
オレの中の何が変わったんだか、今年のこの日に受け取った物達は色褪せて見え。

―――なんて、理由はこれ以外ねぇよな。

この中にはない世界に一つだけの…アイツからのプレゼント。それはどんなに小さくても、まるで宝石のように輝いて見える。

ったく、おせーんだよ。
朝から今か今かと待ってるオレってバカみたいじゃん。

手の中で玩んでいた一つを机上に放り投げ、立てかけてあったギターを構える。
ゆっくりと一つ一つの音を確かめるように指を動かせば、苛ついた気持ちも治まりオレだけの世界に旅立っていく。

「なんか、妬けちゃうな。コウにそういう表情させるギターって。」

突如目の前で聞こえるのは、今思い描きながら音に乗せていたオレの心に住みつくたった一人の―――

「おせーんだよ。ったく、いつまでこのオレ様を待たせ――っつ!」

つい本音を口にしてしまい慌てて目を開ければ目の前でしゃがみ込んで俺を見上げている。

「ふ〜ん。待ってた、んだ?」

「ちっ、ちげーよ。今のは言葉のあやっつーか!」

「ふ〜ん。…じゃあ、コレもいらないよね?私の事は待ってなかったんだし。」

そう目の前に掲げるのは、掌に乗る程の小さな包み。

本当はそれをずっと待ってたけど…そんな事、カッコ悪くて言えるワケねぇだろ!

言葉に詰まるオレの前でしゅるりとリボンを外し中から摘んで取り出したのは、一口サイズのハートのチョコ一粒。

「たったそれだけかよ?!」

「え〜?コウはいらないんでしょ?それに…たくさん貰ってるんだし?」

ちらりと机にあるチョコの山に目を向ける。

それを…オマエからのものだけしか待ってねぇし、あんなの嬉しくなんかねぇ。

喉から先に言葉が出ないオレに、じっと見つめていたオマエがひょいと自分の口にほうり込む。

「あ゙ーー!何をやってんだよ!オレに持って来たんだろ!!」

「ひらなひんでしょ?」

「いるに決まってんだろ!!それだけを待ってたのに!!……あ。」

つい本音を叫んで固まるオレとしてやったりと笑顔のオマエ。

「待ってたんだよ!すっげー楽しみにして!そんなの当たり前だろ?!」

一枚上手の最愛の相手にオレが勝てるハズなんてなく、乱暴に背もたれにもたれ天を見上げ本音を口にするオレの顔に影がかかる。

「ーーー!!!!ーーー」

「どう?今年のチョコの味。隠し味は私の愛……あれ?顔、赤いよ?」

「……うっせーんだよ……バカ…。」

カッコ悪いくらい赤い顔で、口元を隠すオレが言えるのはそれくらいしかなくて……。

いつもの触れるだけのキスと違う、とろけるような甘いチョコ味のキス。

待ちに待った特別な日は、特別な甘い恋の味。

――Sweet Valentine's Day――


うっせーんだよ、バカ! 針×主
11.05/03

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