嫌になるくらいの雨。シトシトと降り続くような静かな雨ではなく。まるで空が子供のように大泣きしているような…大粒の涙を流しているような…鈍色の雲を伴って、まるで太陽など最初から居なかったかのように降り続く。

―――泣きたいのは俺の方だ……。

恨めしげに窓の外を眺めても、嘲笑うかのように音を立て叩き付ける雨音は激しさを増し、諦めの溜め息をつき携帯を耳に押し当てたままベットに身体を投げ出す。

『雨、だね』

「雨……だな」

繰り返されるのは同じ言葉。
随分前から二人で立てた計画。触れ合う程に顔を突き合わせ、笑いながら、喧嘩をしながら。同じ時間を共にして、同じ気持ちを共有して。二人で立てた楽しいはずの時間。

いつの間にか傍にいて、いつの間にか当たり前になって、いつの間にか離れられなくなって、いつの間にか心を触れ合わせていた相手との貴重な時間。

『止まないね?』

「止まない、な?」

まるで鸚のように繰り返す言葉。
数少ない言葉とは裏腹に、通話時間だけが長くなる電話。黙ったままの時間の方が長いのに、それは少しも苦痛ではなくて。
微かに聞こえる雑誌か何かをめくる紙の音、聴いた事はないけれど誰かが歌ってる声。
そして、陶器が重なるその音は……。

「コーヒー、飲んでる、のか?」

『え?どうして分かるの?香りが届いてる、とか?』

「そんな訳ないだろ。さっきから、カップがソーサーに当たる音、聞こえてる。」

『だよねぇ〜?あー、吃驚した。じゃあじゃあ、クイズね?今どんな銘柄飲んでるでしょ〜か!』

「そんなの分かる訳ないだろ?」

そう。いくら俺がコーヒーを好きだからって…人よりも詳しいとか、それを将来の夢にしているからって、電話越しの銘柄なんて分かるはずがない。

ホント…バカだよな。

呆れる俺の耳元に、くすくすと楽しそうな笑い声。擽るようなその声に押し込めた気持ちがむくむくと盛り上がり、よっと掛け声を上げながら反動をつけて起き上がる。

「あいたいな。」

『……うん。あいたいね。』

込み上げる思いは抑える事が出来ず窓辺に近寄ると、俺の気持ちが届きそうな雲の切れ間から差し込む光。降り注ぐ柔らかな雨。
海の向こうに架かる虹。

「………今から行く。さっきの答え、用意しといて?」

切り際の嬉しそうな明るい声に、弾かれるように部屋を飛び出す。外に出てみれば吹き抜ける強く爽やかな風、覗く澄んだ青空。
水溜まりを気にもせず、駆け出す海沿いの道。気持ちは俺よりも早く、先へ先へと進んでゆく。この青空みたいな笑顔で待っているだろう、おまえの元へと。

あいたいあいたい
11.05/03

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