パカリ、カチリ……パカリ、カチリ。規則正しく奏でる音と白く浮き上がる光が、静まり返った暗闇の部屋でこだまして浮かび上がる。

ベットに仰向けになったまま、意味もなく開け閉めする携帯。殆ど使われていないそれは、メモリー数なんて片手に余る程のもので。着信音が鳴る事なんて当然のようになく、ただの四角い箱、以下の物。
そんな事は百も承知のくせに、鳥も虫も鳴く事すらない何もかもが眠りにつく真夜中。
シンと静まり返った部屋の中で、僅かな希望と願望を指先に潜ませて念じるような動作を繰り返している。

胸の中に穴が空いたような…まるで真冬のような凍えるように冷たい風が通り過ぎる心細い夜には…誰かの…たった一人の誰かの声が聞きたくて。でも、自分から踏み込む勇気なんてまるでなくて。ただ祈るように、それが光り輝く事を待っている。

いつからこんなになったのだろう。
いつから一人でいられなくなったのだろう。
……いつから、たった一人の誰かを手に入れたくなったのだろう。

取り留めなく思考を張り巡らせても、迷子の子供のような俺の心は迷路の出口を見つけられるはずもなく、ただやみくもに歩き回って来た道すらも分からなくなっている。

―――お願いだから―――
―――俺に気付いて―――。

小さなあの頃の俺が白く浮かび上がる画面に映る。今の俺と変わらぬ願い。たった一つのかけがえのない約束。

たった一つの……道標のような淡く輝く光。

『あ…。瑛くん、起きてた?もしかしたら寝ちゃったかなー?って…、……え?眠れないの?』

耳に届くのは優しい波音。寄せては返すさざ波のような心地のいい音色。
荒波に向かって届かない願いを叫ぶ俺に、いつも気付いてくれる暖かな……。

『仕方ないな。じゃあ……子守歌でも唄おうかな?瑛くんが眠れるまで。』

いや…。その声が耳に届く、それが子守歌。荒波に揉まれて尖った岩のような心ごと包み込むような囁き。柔らかな波に抱きしめられて溶けるような錯覚。海中から見上げた光のような暖かさ。

だから…俺の為に囁いて。子守歌のようなその声で。俺が眠りにつくまで…唄い続けていて。

子守唄を唄ってあげよう
11.05/03

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