「ウルサイ、もういいよ。俺、帰る。」

これで何度目だろう。些細な事なのに、勝手にヤキモチを妬いて帰ってくるなんて。

でも、あいつ…あかりだって悪いんだ。
俺の気持ちにまったく気付かないんだから。

普通に考えれば分かるだろ?これだけ傍にいれば。
おまえ以外の女子の影なんて、これっぽっちもないのに。

すでに真っ暗になった住宅街。
ぽつりぽつりとある街灯。

さっきまでとは違って、左隣がやけに広く寒く感じる。
すぐに後悔するくらいなら言わなきゃいいのに。カッとなると後先考えずに言葉が出るのは俺の悪い癖だ。
自分のバカさ加減に溜め息をつきながら、鳴らない携帯を握り締め、ただ黙々と歩く。

今すぐあいつに電話してみようか。
いや、いつもヤキモキしている俺の気持ちをあいつだって感じたらいいと思う。
そりゃあさ、俺みたいに絶対思わないだろうけど?俺とあいつでは……、好きって気持ちにはっきり差があるもんな?

自問自答のように脳裏に浮かべながら、静まり返った一本道でぴたと足を止めた。
分かりすぎるくらい分かっていた事。あかりの気持ちと俺の気持ちの違いと温度差。友情と愛情。

いや、俺のこの気持ちが愛情だとはっきり言える確証も確信も根拠もないのだけれど、友情ではない。それくらいは分かる。

止めた足を再び踏み出しアスファルトを見つめながら、ぐるぐると堂々廻りのように浮かぶ言葉にそれらしい答えを見つけ、等間隔に照らされた道を進みまた足を止めた。

「あー……、もう!ちょっとくらいは俺の事気にしろよ!こんなになってる俺がバカみたいだろ!」

いつまでたっても鳴らない手の中の携帯。
どうせあいつの事だから、まったく気にも留めてないか、気を病みすぎてるかのどちらかだ。

俺から折れてやらなきゃ仕方がない。
あいつは世界一の天然でお子ちゃまなんだ。

そんな言い訳を浮かべながら、折り畳まれた携帯をかちりと開く。
浮かび上がる光は眩しくて目を細めながら履歴を呼び出した。

「……居留守なんて使ってみろ?明日特大チョップなんだからな?」

さすがの俺でもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、緊張で早くなる鼓動をごまかすように、たった一件だけある番号の発信ボタンを乱暴に押す。

さっきはごめん?それとも……一言目に一番合う言葉を探しながらも、一回二回と当てた耳に届く着信音に八つ当たり。

あいつなら、この電話に出ると分かっているくせに。

三回…四回…たった数回の着信音が、俺にとっては長い長い時間に感じる夜となったのであった。

鳴らない電話
10.05/29

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