雑音、という言葉がぴったりと当て嵌まるような昼間の喧騒から誰もいない部屋へと戻ると、その静けさがやけに気に障る。

隣にいたはずのいつもの相手。

当たり前のように一番近くにいる相手との関係は、言葉では表現出来ないほど曖昧で不確かだと思う。

それでもこの、なにかが欠けたような虚無感は、きっと相手の存在が必要不可欠だからだろうと、真っ暗な部屋の明かりを点けた。

なんとなく面倒で、脱いだ上着を椅子の背に無造作にかける。ジーンズの後ろポケットから携帯を取り出すと、転がるようにベットに倒れ込む。

波音だけが聞こえる、なにもない部屋。
いつもなら心が安らぐその音も、ざわつく心を抑える事が出来なくて、携帯を握り締めたまま腕で瞼を覆った。

このまま世界を瞳に映したままだと、なにかが溢れ出るような。なにかが崩れてしまうような気がする。

きっと寒さのせい。誰もいないこの部屋は、寒さが余計に心に響く。なにもない、なんの音もないせい。この不安定に揺れる心は。

無理矢理閉じた瞳で、無理矢理世界も閉じようとする。意識をなくしてしまえば…眠りに落ちてしまえば。朝がくれば音も広がる。

ざわざわとさざ波のように不安だけが広がる心に、揺れる携帯が意識を逸らす。
ゆるゆると腕を動かし携帯を開くと、そこには見慣れた文字。

「もしもし?瑛くん?もうお家についた?」

聞き慣れた声。暗闇の中から一筋に落ちる光のような明るく暖かな…そんなあかりの柔らかな声。

視界には、嘘のように広がる部屋の明かり。聞こえるのは穏やかな波音。いつもの…この部屋の音。

不思議なくらい心が落ち着き、世界が色を戻す。不安定な弱い俺が静かに眠る。例えそれがつかの間だとしても。

「……あぁ。今着いたとこ。おまえ、タイミングよすぎ。」

大丈夫。まだ俺でいられる。こいつが…あかりが傍にいてくれる限り。時々揺れる心を無意識に繋ぎ止めていてくれるから。

まだ………大丈夫………きっと。
不安定な心 佐伯×主
11.06/24

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