「ねぇ……桜餅の葉っぱって…食べる?」

「はあっ!?……おい…大丈夫か?これ、柏餅だぞ…?」

「わっ、分かってるってば。そんなに顔に近付けたらくっついちゃう!」

連休最終日、つまりはこどもの日。
今いる場所はあかりの部屋。

なぜか難しい顔で皿に盛られた柏餅を睨みつけるあかりに、一つ手に取りよく見えるようにと目の前に突き出す。

ぷりぷりと膨れっ面をしながら俺の手から柏餅を引ったくり頬張っているのを尻目に、また皿から一つ手に取るともそもそと口に入れた。

「男の子がいないから縁がないのよねぇ。佐伯くん、よかったらその日は遊びに来てくれないかしら?」

「は?お…僕が、ですか?…どうして…。」

「だって、せっかくなんだからハンサムくんの方が気分いいでしょ?」

いつものように店が終わり、いつものようにあかりを家に送り届けたはずなのに、なぜかその日はあかりの母親が門の前に立っていて、脳天気な言葉を浴びせる。

目を丸くし呆然とするあかりと俺の前で、文字通りキャッキャッとはしゃぐあかりの母親の無邪気に見える強引さに断りきれず、渋々訪れた俺は半日をここで過ごしていた。

「………ごめんね?せっかくのお休みなのにこんな事になって…。」

「別にいいよ。こういうのって俺も縁がなかったし。おまえのお袋さんの料理も旨かったしな?」

「でも…………あれはちょっと……。」

「………まあ……あれは…ちょっと、な?」

「………うん。お婿さんとか……ないよね?」

「………まあ……な?」

珍しく言い淀むあかりの申し訳なさそうな顔に、俺も同時に苦笑いを浮かべる。

さすがのあかりもこの母親では大変なんだろうと少しばかり同情し、もしかしたらと未来を想像して慌てて首を振り溜め息をついた。

その溜め息の元凶である母親の足音が階段を軽やかに昇ってくるのが聞こえ、黙ったまま顔を見合わせると、再び大きな溜め息をついたのだった。

なんでもない休日
10.05/05

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