ウッカリとしていた。なんて、私には珍しく、また許されない事なのだが……。
放課後になって、教室に忘れ物がある事に気がついた。
少し……、いや、かなり気が緩んでいるらしい。
思い当たる事が無きにしもあらず。
最近の私は教師としてあるまじき行動を起こしている事が多々ある。
そう。この目の前にいる少女を、無意識に探している事だ。
「珍しい事もあるんですね?疲れてらっしゃるんですか?」
「そんな事はない。……と、思う。」
何故こんな事になってしまったのか……。
あぁ、そうだ。さぁ帰ろうと愛車のドアに手をかけた時、忘れ物をした事を思い出して、職員室まで戻ったが見当たらなかった。
そういえば、授業が終わってから見た覚えがない。と教室に戻って来たら彼女が一人で自分の席に座っていた。
そこで私は、何かあったのかと彼女に聞いた。それは、担任として生徒の悩みを聞く事が必要だと思ったからだ。
「いえ?ただ、ここからの景色が好きなんです。秋は学校の木々が綺麗に彩ってるんですよ?」
そう外を眺める横顔に、忘れ物の事もすっかり忘れて彼女の前の席に座ってしまった。
そう。その結果が今この状態なのだが。
自分の起こした行動が、あまりに突飛すぎて唖然とする。私は教師で彼女は生徒だ。
こんな、しかも学校で意味なく二人きりでいる事なんて、本来許されるべきではない。
しかし、黙っていても心が安らぐような……、感じた事がない気持ちになる。
「いったいどういう事なんだ?」
「何が、ですか?」
気がつけば窓の外から視線を外し、真っ直ぐに見つめる彼女。どうやら思考に夢中なあまり、口から出ていたらしい。
大人の判断から言えば、私が考えている事を目の前の少女に話すべきではない。しかし、彼女が感じる事が知りたい。
その探究心が教師としての私を押し退ける。
「……人間が、自分とは違う人間を気にかける。という事は、どういう意味があるのだろうか。」
これだけでは意味が分からないのかもしれない。目の前の少女は、パチパチと数回瞬きをして言葉を探している。
分からなければいいんだ。忘れて欲しいと語りかけようとした時、彼女が口を開いた。
「それって、好き。だからって事なんじゃないんですか?」
「君の言っている意味が分からないのだが。」
「えっとですね。その人の事が気になって目で追い掛けるとか、何を考えてるのかとか。
知らず知らずのうちに、その人の事ばかり考えてるのって好意がないとしないと思うんです。
だから、好きなんじゃないかと。」
「……なるほど。一般的な見解というものはそういうものなのか。」
彼女の口から紡ぎだされる言葉を何故か素直に聞き入れる。今までの私なら有り得ない事。
しかし、これが事実なのだから受け入れざるを得ない。そして、そんな不可思議な私を私自身が受け入れてしまっているのだ。
―――この現象を人は恋と呼ぶのだろうか。
恋というものは、奥が深く謎に満ちているものなのだな。
そうだな。今夜は朝までゆっくりと恋についての見解及び現象をレポートに纏める事にしよう。
―――楽しい夜になりそうだ。
これを恋って言うのだろうか 氷室×主
11.05/03
11.05/03
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