いつも柔らかく爽やかに笑っていて、勉強もスポーツも出来て人望も厚く……男女関係なく分け隔てなく。
そんなイメージでしかなかった。
それがいつの頃からだ?
俺の視界に否応なしに入ってきては、俺の心を掻き乱す。
掌から零れる砂のように落ちていった、たった一つの夢。
それを数え切れない砂の中から拾いあげ差し出してくれた、この世でたった一人の大切な少女。
「志波くんは野球が一番好きなんでしょ?」
好きという気持ちを思い出させてくれた。
心の奥深くに沈めていた情熱を、もう一度甦らせてくれたかけがえのない少女。
その特別な気持ちが恋だと気付いた時には少女の隣にいた男。
今まで見せた事もない屈託のない笑顔。
今まで聞かせた事のない話し方。
そして、からかうようなその態度とは裏腹な慈しむような瞳。
奴にとっても、ただ一人。
どんな事と引き替えにしてもいい、と思える女なんだと気付く。
それは奴にもすぐ分かる事。
少女の傍に俺がいる時の奴の表情は、周りの人間には分からなくても俺には分かる。
そして……、少女の傍に奴がいる時の俺の表情を気にする奴の目。
お互いがどんな風に思っているのか、手にとるように分かる。
奴には、いや誰にも渡したくない。
この腕の中に閉じ込めて、誰の目にも触れないようにしてしまいたい。その声も、笑顔も全てを隠して自分だけのものにしてしまいたい。
絶対に奴には渡さない。
お互いの視線が火花を放って絡み合う。
手始めは、次の日曜。
第1ラウンドの幕が上がる。
幕は上がった 志→主←瑛
11.05/03
11.05/03
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