オレの頭の中は、かなりややこしくて。どうしょうもなく音楽が溢れてくるかと思えば、まるで音なんてもんはこの世界にねぇんじゃねーのか?ってくらいの時もあって。
ただ、ここ最近はイイ感じに湧いてくるから、そういう時はオレもご機嫌って感じ。
……あ、コレ、いいんじゃね?
ふと頭に過ぎったメロディーを、呪文のように繰り返しながら音楽室に向かう。
昼メシは食ってないけど、そんなもんは別に後でいいし。オレにとっての一番はコレなんだから、他の事なんてどうだって…。いつもの場所に置いてあるギターを取り出し、頭の中に流れてるメロディーを音に乗せる。
……やっぱオレ様って天才。
思ったよりもしっくりくる音に満足して、鼻でふふんとひとつ笑うと、ケースの中に挟んだ楽譜に書き出して行く。
あ、コレならこの間のヤツに合うんじゃねぇ?
つい最近、何気なく書き込んだ楽譜を取り出し、見比べてみる。別に狙った訳でもないのに、違和感なく出来上がりつつあるものがそこにはあった。
やっぱりな。
コレ書いた時も今日みてぇな感じだったし。
まるで完成したかのように嬉しくなって、ニヤニヤと笑いながら2枚の楽譜を掲げて、もう一度じっくり見比べ……。
そこでふと、コレを書いた時はどんなんだっけ?と記憶を辿る。
確か…、今日みたいな授業中で。相変わらずお経にしか聞こえねぇな。なんて考えてて……。
あぁ。そうだ。窓際の一番後ろのオレの席は、日当たりがよくて校庭がよく見えるから、アイツのクラスの体育の授業を見てたんだ。んで、あんまり暇だったから『オレに気付け!』なんて無理な事念じて。
―――まさか、本当に気付くなんてな。
振り返ったオマエが、真っ直ぐオレを見て小さく手を振った時、お経みたいな声が突然違うメロディーになったんだ。
そういえば……。
今日もアイツの事考えてた…。
今日だけじゃない。最近はずっとアイツの事考えてて…。そんな時はいつも周りの雑音が消えて…。アイツの姿だけが頭に浮かんで…。
これもこれも…、これだって。
最近書きかけていた楽譜を一枚ずつめくり、自分自身に呆気に取られる。
「はぁ?ぜんっぜん分かんねー。」
「なんだ。のしんって無自覚なんだ?」
井上が言ってたのって……、こーいう事だったのか。
自分だけが気付かなかった事実に、急に恥ずかしくなって顔を隠す。近づけすぎてピントが合わない楽譜には、どう考えてもバラードが書かれていて。
誰にも見られてなんかねーけど、今のオレの顔は誰にも見せられねー。
だってさ。こんな曲に合う歌詞なんて、ラブソングしかねーじゃん。次に出来上がった曲は、一番にアイツに聞かせるって約束したんだぞ?
そんなの……、バレバレじゃん。
半分ヤケクソになりながら、バシンと机に楽譜を並べ、ギターを持ち直す。
こうなったら、鈍感なアイツにだってバッチリ分かるように、気合い入れて作ってやる。
オレの気持ち、全部が伝わるくらいに。
そう心に決めて深く息を吐くと、目の前にアイツの姿を思い浮かべながら、溢れる言葉をメロディーに乗せ始めたのだった。
響け、愛のうた 針×主
11.05/03
11.05/03
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