episode9
―翌日―
「初めまして本日よりお二人の家庭教師を務めさせて頂く事となりました桐野塚淑江と申します桃色のお洋服が珠姫様で空色のお洋服が優姫様でございますねどうぞ宜しくお願い致します」
目の前の女性はこれを一息で言い切りました。
襟の詰まった紺色の裾の長いワンピースにぴっちりと結った黒髪
チェーン付きの眼鏡をかけたその姿はまさに――――
ロッテンマイヤーさん!!!
「玖蘭家の姫様方をご指導申し上げるなど誠に僭越ではございますが悠様が直々にお願いにいらっしゃいまして大変恐縮致しましたがこれほどまでに姫様方のご将来を深くお考えになっていらっしゃるのだと非常に感激致しましたこれよりは姫様方を玖蘭家の名に恥じぬ吸血鬼界一の貴婦人にお育てする事が私の使命だと考えております」
……っ
……っ
はーっ、はーっ、はーっ
こっちが息詰まるわ!
凄いこの人どこで息継ぎしてるの!!?
優姫は隣でポカンとしてるよ!
そうだよね!ゆっきーには何言ってるか分からないよね!
「本日は何から始めましょうと考えましたところ何より先ずはお作法の初歩であり基本であるお辞儀の練習から始めたいと思います」
「お辞儀?」
なんて可愛く小首傾げながら内心ではほっとした!
なーんだお辞儀かー。
お父様が「語学」なんて言うから初日から英語のレッスンだったらどうしようかと思ってたんだよねー。
中学のテストで32点を取ったこともあるツワモノですのよおほほほほ。
赤点じゃなくって良かったよねほんと!
「そうでございます珠姫様お辞儀です何事もお辞儀に始まりお辞儀に終わると言っても過言ではありません一言でお辞儀と申しましてもいくつか種類がありますが今日は様々な場面で用いられる"curtsey"から始めてみましょう」
「カ、カー…?」
「カーテシーでございますよ優姫様女性の伝統的な挨拶でございます!」
カーテシーって…なんぞ!!
えっ!お辞儀って普通に頭を下げるだけじゃダメなの!?
「やり方としましては両手でスカートの裾を摘まみながら少し持ち上げて片足を斜め後ろの内側に引きもう片方の足の膝を軽く曲げるますその時背筋は美しく伸ばしたまま!そして清らかな笑顔で!これがポイントです宜しですか?では珠姫様どうぞやってみて下さいませ」
ええええ!!?私からっ!!?
でもそうだよねお姉ちゃんだしゆっきーはまだ頭の上にいくつもクエスチョンマークを浮かべてるし私がやるしかないのよね!
えーっと?スカートを摘まんで片足を下げて膝を曲げる??
「…こう?」
「ああ珠姫様!背筋は真っ直ぐと申し上げたでしょう!」
ああそうだった。
背筋を真っ直ぐに保ちながらスカートを摘まんで片足を引いて膝を曲げる…と。
「片足は内側に引くのです少しクロスさせるように」
んんんー?
これって意外と難しい。
背筋をまっすぐ保ちながらスカートを摘まんで片足をクロスさせるように後ろに引いて膝を曲げる…。
「珠姫様!笑顔をお忘れです笑顔!」
それなら任せて!大得意!
必殺☆エンジェルスマイル!
「今度はお辞儀をお忘れです」
ああああああ!!!
―5/9―