episode8
「ひっそりこっそり忍び足」
「ひっそりこっそり忍び足」
こそこそ声で言いながら、そーっとそーっと足音を立てないように廊下を進む。
長い廊下の突き当たり、大きな扉が目の前にそびえていた。
「行くよ、優姫?」
「いいよ、珠姫!」
「「イチオー、覚悟!!」」
私たちはバーン!と扉を思いっきり開けた。
お兄様はどこお兄様はどこ!!
めくるめく撮影会はどこなのー!!
と、ぐるりと見廻すけれども「その表情いいねー、そのまま横に目線流して」なんていうカメラ小僧の声はなく、
途切れることないシャッター音は聞こえず、目も開けられない程のフラッシュもない、そこはシーンと静まりかえった部屋。
その真ん中に置かれた大きなソファには、まるで泥のように眠る一翁が横たわっておりました。
「……」
「……」
「寝てるね」
「ねむっちゃってるね」
「あっ、優姫!」
優姫はとたたっと一翁に近づき、その体をツンツンと突いた。
それでも起きないので今度はゆさゆさと揺さぶる。
それでもやっぱり起きないとわかると天井のシャンデリアが揺れるほどの声で「いっちっおーーーー!!!」と叫んだ。
しかし一翁はぴくりともしない。
「ちょ…優姫!」
「…へんじがない。ただのしかばねのようだ」
可愛い妹はぽつりと呟きました。
その言葉にお姉ちゃんはただ茫然とするしかありません。
え…ちょ…!!
それは某国民的RPGのお約束メッセージではないか!!
どうしてキミが知ってるの!?
ゲームなんてしたことないでしょ!!?
ねえねえ!どうして!!!
「ねえ、珠姫、イチオー寝てるよ」
「うん、それはわかってるけど」
「なにしても起きないよ」
「うん、それもさっきわかったけど」
「なにしても起きないよ!」
「うんだからわかったって……え?」
大事なことだから二度言いましたと言わんばかりの優姫。
その瞳はキラキラと輝いております。
私と優姫は少しの間見つめ合い、そして…
にやっと笑い合いました。
―3/6―