dream2
クローゼットを抜けて自室へ戻ると、リビングには準備を終えた優姫がいた。
「おはよう、珠姫。今呼びに行こうと思ってたとこだよ」
「おはよう、優姫。ちゃんと一人で準備できたのね。えらいえらい」
「お家でちゃんと練習したからね」
月の寮にもメイドさんがいるとはいえ、身の回りのことは自分でするのが寮生活の基本。
学園への入学が決まってから、お母様やお屋敷のメイドさんたちと一緒に練習したんだよね。
制服のリボンがちょっと曲がっているけど、それもご愛敬でしょう。
「あれ?そういえば珠姫、いつバスルーム使ったの?」
「えーっと、優姫が起きる前よ!」
「ふぅん、そっか」
その時、廊下側の扉がノックされた。
「珠姫、優姫、おはよう。準備は出来た?」
「おはよう、お兄様」
「私も優姫もバッチリよ」
お兄様は何事もなかったかのように、いつもの穏やかな笑みで迎えに来た。
さっきあんなキスを交わしたばかりなのが嘘みたい。
私も素知らぬふりをしてブックバンドで留めた参考書を持って部屋を出る。
すると階下のロビーへと降りる途中、優姫に隠れて小指だけがそっと絡められた。
一瞬だけ交わされる眼差し。『秘密だよ』と、細長い人差し指が形の良い唇に当てられる。
「……っ!!」
あぁん!!無理ぃ!ときめきが止まらない!!!
秘密のラブラブスクールライフ最高―!!!
「珠姫、月一パフェでどう?」
思わずニヤニヤしてしまうのをひた隠しながら他の夜間部生たちと一緒に校舎へ向かう途中、突然優姫が私に言ってきた。
パフェを奢れってこと?いきなり何でよ?
「どしたの急に?」
「お兄様の部屋に行ってたこと、お父様とおじたまに内緒にしてあげる」
バレてたーーー!!!
え!?え!?何で!?やっぱりゆっきーも純血種だから気配とかで分かっちゃった?
「そりゃ気付くよ。明け方、珠姫の部屋を覗いたけどいないし、バスルームは使った形跡ないし、それにさっきのお兄様と珠姫、よそよそしすぎて逆に変だったもん」
「えーっと、だから、それは、その……」
「どうせ今朝もお兄様と一緒に寝たんでしょ。部屋から出た気配はなかったから、隠し通路か何かあったの?そうじゃなきゃ、昨日あんなに泣いてたのに、珠姫の機嫌がけろっと直るわけないもん」
ゆっきー、ご明察すぎる。
私たち全然秘密に出来てなかったよ、お兄様……。
「それで、月一パフェ、どうする?」
得意げに微笑む妹の提案を、私は無言の握手で受け入れた。
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―8/9―