とある乙女の華麗なる日常 | ナノ
dream2


柔らかな白とダークブラウンを基調とした上品な室内。
四本の支柱に支えられた豪奢な天蓋付きベッド。
何度も何度も夢に見た月の寮の君の寝室。


「だけど実際は僕と珠姫の部屋。……僕たちだけの秘密だよ」


そこには、公式ファンブックの間取り図には描かれていなかった女性用のドレッサーやチェストが置かれていた。
ベッドサイドのテーブルランプは私のお気に入りの物だし、部屋に漂うのは私好みのローズとピオニーの香りだ。


「設計の最終段階でなんとかクローゼットに隠し扉を作ったんだ。表立っては同じ部屋に出来なかったけれど、……これで許してくれる?」


お兄様は髪をやさしく撫でながら私の顔を覗き込んだ。


「私……、毎日ここで寝ていいの?」

「もちろん」

「私の荷物も置いていい?」

「好きなだけ」

「本当に……私とお兄様のお部屋なのね?」

「そうだよ」


な ん て こ と ! ! !
クローゼットの奥はライオン王が統治する不思議の国じゃなくて寮長様との愛の部屋だったのね……!


「お兄様、……大好き!!」


私は感極まってお兄様にぎゅっと抱きついた。


「でもそれならそうと、早く言ってくれたら良かったのに!」

「『僕は隣にいるからすぐにおいで』って言っただろう?」

「そういう意味だったの?それだけじゃ分からないわ!」

「くす、本当はちょっと珠姫の驚く顔が見たかったんだ」


お兄様は小さな悪戯が成功したような、とびっきりのご褒美をもらったような、そんな嬉しそうな顔でくすっと笑った。

ちょっ………………!!!!!
お兄様、その笑顔は反則だわ!!!
なんたる攻撃力!!!なんたる破壊力!!!
これは連写して永久保存せねば!!!
……ってカメラ部屋に忘れたぁぁぁあああ!!!
華麗乙女最大の不覚!!こうなったら瞳孔を限界まで開いて脳裏に刻みつけよう!そして後で印画紙に念写しよう!!


「もう泣かないで、珠姫」


よし、データは完璧に取れた!
ってお兄様、これは違うのよ。別に泣いてるわけじゃないの。最大限まで目を見開きすぎて乾燥しただけなの。
でもせっかくなら潤んだ瞳でちょっと睨んで、可愛らしく拗ねたふりをしとこう!


「もうっ、お兄様のせいなんだからね!」

「驚かせすぎたね、ごめん。ほら、早く着替えて一緒に眠ろう」


お兄様は私の機嫌を取るように髪や目元に何度も小さなキスを落とすと、さっき優姫が適当に投げて寄越したネグリジェを私に手渡した。
え!?いつの間に持ってきてくださったの?
お兄様ったら抜かりないんだから♪

とりあえずサニタリーでさっと着替えて寝る準備を整える。
泣きすぎて少し目が腫れていたからツボ押しマッサージで応急処置。
これで夕方起きた時にはましになっているでしょう。
そして私はお兄様の待つ大きなベッドへと飛び込んだ。


「ねぇ、お兄様……」

「なに、珠姫?」


すべすべとした新品のシーツの中、お兄様に抱きしめられてその香りを深く吸い込む。
穏やかな鼓動、優しいぬくもり、慣れ親しんだ腕の中は私を瞬く間に夢の入口へといざなう。


「お兄様と一緒に……、夜間部に通うのが……、ずっと昔からの……夢だったっていったら……へんかしら……」


きっとお兄様が想像もつかないくらい昔から。
ずっとずっと、ここに来ることを夢見ていたのよ。


「……僕もだよ」


眠りに落ちる瞬間、やさしいキスの感触とともにお兄様の呟きが聞こえた気がした。


―5/9―

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