とある乙女の華麗なる日常 | ナノ
dream1


扉を開けて中に入ると少し埃っぽい匂いがした。
大きな天蓋付きのベッドと最低限の調度、他の大きな家具には白い布が掛けられたその部屋は、原作で何度も読んだ枢様が瑠佳を噛んだあの部屋だ。
あのシーンと同じ、いやそれ以上に、月明りが差し込む窓辺に立つお兄様はぞっとするほど美しい。


「珠姫、どういうつもり?」

「何のこと?お兄様」

「あんな風に他の男たちに笑いかけて、手を握ったり抱き着いたりして…。さすがに無自覚だなんて言わせないよ」

「これから同じ寮に住むクラスメイトになるんだもの。仲良くするのはいけないこと?」


わざと笑みを絶やさずに言えば、お兄様は私の手首を強く掴んだ。


「僕に見せつけて、そんなに楽しかった?」


初めて向けられる獰猛なまでの鋭い眼差し。
その瞳に嫉妬の炎が渦巻いているのを見て、ようやく少し心が凪いだ。
やっぱり玖蘭の血は侮れないわね、私の中にもこんなに狂気的な感情があっただなんて。
お兄様が嫉妬に苦しんでいるのが、こんなにも嬉しいだなんて。


「君が千里に抱きついた時、僕がどんな気持ちだったか……」

「私が千里の血を吸うとでも思った?」

「……本気で吸おうとしたの?」

「一瞬だけよ。でも、吸わなかったでしょう?」


ほんとに一瞬ね?ちょっとくらっときたのは事実よ。
だって千里たんったら良い匂いするんだもんー。
でもちゃんと我慢したし、吸わなかったでしょ?
だって……


「私は、お兄様の血しか知らないもの。……お兄様と違って」

「え……?」


あ、やばい。
と思った時には言葉が口から飛び出していた。


「従者がいるのは良いわ。でもせめて、下僕を作ったのならその時に教えてほしかった。……ううん、本当はそれもいや!お兄様が他の女の血を吸って、お兄様の血を他の女が飲んだと思うと、嫉妬で頭がおかしくなりそう!」


うわぁぁああああん、どうしようぅぅぅぅ
こんな風に感情をぶつけるつもり何てなかったのにぃぃぃ
もっと余裕なところ見せたかったのにぃぃぃ
もうブラックスマイルなんて0%よぉぉぉぉ
涙出てきて止まんないよおおおぉぉぉぉ


「私にはお兄様だけなのに……。お兄様の血しかいらないのに……っ」

「珠姫…、何か誤解してないかい?」


ぼろぼろ泣き出した私を見て、お兄様は驚いた様子で少し慌てていた。
握られていた手の強さは弱まり、代わりに反対の手が私の頬にそっと触れる。


「何が誤解なの!?」

「星煉は従者だけど、僕の下僕じゃないよ」


へ………?


―10/13―

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