とある乙女の華麗なる日常 | ナノ
episode16


「珠姫……、珠姫……」

「ん……」


目を開ければそこはいつもの我が家の天井でした。

あー、良い夢見たなぁ。
少年零りんとのボーイミーツガールなんて!きゃっ♪
でも出来るならもう少し一緒にいたかったなぁ。
せめてあのすべすべのほっぺたをツンツンしたかった…!
……ってあら…?お兄様?
どうしてそんなに不機嫌な顔をしてらっしゃるの……?


「……ねぇ、珠姫…、『ゼロ』って、誰だい……?」


地の底から響くような声でお兄様は言いました。

え……?
……もしかしなくても私、寝言いってた!?
うわーうわーうわー!!!
どどどどどうしよう!!!
えーっとえっと、ゼロっていうのは神聖ブリタニア帝国に戦いを挑む仮面の反逆者のことですよ☆
……なぁんて冗談でも言えないくらいお兄様の怒りのボルテージがマックスに近いよぉぉおお!!
後ろにサタンを従えてるのが見えるよぉぉおお!!
さっき上がった熱が一瞬で引きました!

――――ミシッ

……ミシ?
大変です隊長!ガラス製品が嫌な音を立てています!
先程から地鳴りのような揺れも止まりません!
いかん!どうにかしてこの場を抑えねば屋敷どころかこの山一帯が吹き飛ぶぞ!
特命だ!華麗乙女の演技力を総動員せよ――――!!

イノセントメイデンパワー、フェーイク、アップッ!


「『ゼロ』…?って、私言ってた?」

「ああ…、とても楽しげな声でね。『一緒に遊ぼう』とも言っていたよ。僕以外の、それも僕の知らない男の夢を見るなんて……どういうことかな?」

「んー…、山の中でオオカミさんに出逢う夢を見たの。きっとその名前じゃないかしら」

「……オオカミ?」

「そう、でもまだ子供でね、すごく可愛らしくて……ごほごほっ」

「珠姫っ」

「……でも、お兄様のお顔を見たら夢の中のことなんて忘れちゃった」


少し大げさに咳き込んであえかに微笑んでみせる。
伸ばされた手に擦り寄って心地よさげに目を閉じれば、お兄様の怒りは少しずつ収まっていきました。
ほっ、良かったー。


「眠っている君が知らない名前を呼ぶのを聞いて、僕がどんな思いをしたか分かるかい…?」

「うん…、ごめんなさい」

「もし本当に『ゼロ』という男がいたら八つ裂きにしているところだよ」


うわあああああああああ
零りんー!逃げてー!!!


「珠姫にはお兄様だけよ」


これは本当よ!本心からの言葉よ!
確かに零りんの夢を見れて嬉しかったけど!
もうちょっと遊びたかったなーとか思ったけど!


「ね…、だから今度はずっと手、握ってて?」


頬に添えられた手に手を重ねて


「次はお兄様の夢が見れるように」


甘えた声でそう言えば、お兄様はなんとか機嫌を直してくれたようでした。
でもそれから風邪が完全に治るまでの三日間、私はまるで監視されるかのように付きっきりで看病されることになるのです……。

もちろん嬉しかったんだけどね!?
いつまた寝言を言ってしまうかと思うと緊張してまともに眠れなかったよ!


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episode17 12歳:反抗期編
―8/9―

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