episode12
延々と、なんて言ったけれども、そのうち涙は止まるわけで。
そして泣いたらお腹がすくわけで。
「「ぐぅ〜」」
泣き疲れてぼけーっとしながら大きな木の幹に座っていると、お腹の虫が鳴りました。
「…おなかすいたね、優姫」
「…うん」
「……あ、そうだ」
確かパン屋のおばさんにアンパンを貰ったはず、と、地面に転がったバスケットを探ります。
中を見れば少し形は歪んでいたけど、どうやら買った食パンも無事みたい。
そしてその食パンがクッション替わりになったのか、卵も三個は割れずに済んでいました。
「優姫!卵、三個は割れてないよ!」
「ほんと!」
「うん大丈夫!そして、はい!アンパン!」
ジャムおじさんもこんなに美味しそうには焼けないだろうというほどに、アンパンは光って見ました。
今はあのおばさんが天使に思えます。ありがとう。
「え…、でも一個しかないよ?」
……訂正。
タダで貰っておいてこんな事を言うのはあれだけど、あのおばさん、なんで二個入れといてくれなかったんだろう。
私たちが貴重な食料を巡って血で血を洗うケンカでもしたらどうすんのさ。いやしないけど。
お店での会話でもちょっと思ったけど、少し天然さんなんだろうか。
いやいや、ここは一個でもあんパンを頂いたことに素直に感謝しよう。
「いいよ、優姫が食べて」
「でも、珠姫だってお腹すいてるでしょ」
「すいてないよ」
「うそ!さっきお腹の虫が一緒に鳴ったもん!」
優姫はそう言うと、ふっくらとしたアンパンの中央に躊躇なくむぎゅっと指を入れました。
もしそのアンパンがアンパンマンだったら、かなりエグイことになるよね…。
なんて考えていると、優姫はアンパンを綺麗に半分に割ります。
割れ目からはこれでもかというほど、あんこがたっぷり。
「はい、半分こ!」
「え、いいの?」
「一人で食べてもおいしくないでしょ!」
そういって渡されたアンパンは冷たくなってて
でも、二人で食べたそれは甘くてすごく美味しくて
私たちは顔を突き合わせてふふっと笑いました。
―8/11―