とある乙女の華麗なる日常 | ナノ
episode12


「お兄様ぁー!お兄様ぁー!珠姫はここよー!出て来てー!!」


お兄様がいないお兄様がいないお兄様がいない!!
そんなの無理!無理!有り得ない!!
だって!だって!
この世界に生まれてからずっと、お兄様が私の半径30m以内にいないことなんでなかったのよ!?


「お兄様ぁー!お兄様ぁー!」

「珠姫っ」


半泣きになりながら狂ったように叫んでいると、突然ぎゅっと抱きしめられました。


「珠姫、大丈夫だから」

「優…姫…」

「大丈夫だよ!ほら、行こう!」


優姫はそう言って手を差し出してくれました。
なんだか優姫がお姉ちゃんみたい。
そんなことを思いながらそのあたたかい手を取って走り出します。
諦めずに進めばきっと帰れるんだ!
そう思って私たちは駆けました。

―――山道を。
(山道を走るのは無理です)


ズッデーン!!


山道ってね、石や木の根っこなどでボコボコしてるんですよ。
さらに場所によっては苔などが生えてる所もあって、すごく滑るんです。

ええ、盛大に転びました。
それはそれは良い音がしましたよ。
そして白い煙がもくもくもく〜。
あら、浦島太郎の玉手箱?お婆さんになっちゃうわ!
と思ったら転んだ拍子にリュックが開いて小麦粉が飛び出たようです。
よほど勢いが良かったんでしょうか、袋が破けて中身がぱーん!
私も優姫も、身体は土塗れ、頭は粉まみれ。

さらに優姫が持っていたバスケットまで地面に叩き付けられていました。
その衝撃でデリケートな卵は見るも無残な姿に……


「いったぁ…。優姫、大丈夫?」

「…うわあああん!!」

「ゆっきー!」

「痛いよぉぉ!!」


そりゃあ痛いよね。
全身を打ちつけて擦り剥いたもんね。
吸血鬼だから治癒能力は高いけど、痛みは人間と同じように感じるんです。


「こっ、小麦粉も…卵も……うわあああん、ごめんなさぁぁいい」

「大丈夫だよ優姫、ね!」

「…ひっ…く…、だ…って、せっかく…、おつっ…おつかいに、行ったのに!」

「ゆっきー、泣かないで。大丈夫だから」

「うわぁーん!おとうさまぁー、おかあさまぁー!」

「ああああ!ゆっきー、ごめんね!さっきあんなことお姉ちゃんが言ったからだね!不安にさせちゃったね!」

「……珠姫……、帰れなかったら……どうしようぅ……」

「……そんなこと……ぐすっ……言わないでよーお!うわああん!!」


痛いし、粉まみれだし、迷子だし
優姫につられて、なんと私まで泣き出してしまいました。

あーあ、どうして子供って涙腺弱いんだろう。
「堰を切ったよう」とはまさにこのこと!と言わんばかりに涙が出て来る出て来る。
こんなに大声出して泣いたのって、思い返せば赤ちゃんの時以来だよ。
ほら、喋れないから泣くしかなかったんだよね。

静かな山には延々と、私たちの泣き声が響いていました。


―7/11―

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