◇戯れごともほどほどに−2/4−
階段を下りてきたのは枢一人。そして彼の三メートルほど後ろを歩く白亜の姿があった。
『大嫌い大嫌い大っ嫌い!!』
顔を真っ赤にして目に涙を溜めながら、枢の背中に叫ぶ白亜。
枢の反応に怯え凍り付いている夜間部を代表して、この場で唯一彼に話しかけられる男、一条拓麻が恐る恐る言葉を発した。
「か、枢…?何があったの?」
「……いいんだ一条。今日一日、そっとしておいて」
魔王様はどんな暗黒オーラを纏っているかと見れば、なんと微笑んでいらっしゃる。
しかしその笑顔がかえって拓麻の背筋を震えさせた。
「白亜」
枢はいつもと変わらぬ、いや、それよりも甘い声で彼女を呼ぶ。
白亜はゆっくりと枢の傍に寄り、軽く睨むように彼の顔を見上げた。
すると枢は白亜の白い手を、普段そうしているようにごく自然に握る。
そして繋がった手をあえて白亜に見せつけた。
「これは?」
『……』
「白亜、」
『…大っ嫌い』
「そう…。みんな、そろそろ行こうか」
穏やかな笑顔で振り向く枢。
対照的に夜間部の顔は蒼白だ。いつ枢がぷっつんして自分達が被害に遭うかわからない。
最愛の白亜に「大嫌い」なんて言われているのだ。今笑っているのはショックを通り越した乱心か?
そんなことを考えながらも、枢と白亜の後を付いていく面々。
後ろから見る二人の姿はいつもと変わらず仲睦まじく見えるのに、一体何があったというのか。
「…あ、暁、お二人に何があったんだ?」
「俺が知るわけないだろう…」
「白亜様が枢様にあんなことを言うなんて有り得ない。…きっと世界はもうすぐ終るんだ」
戦々恐々と語る英。
確かに、白亜にあんなことを言われて枢が平気なはずがない。
八つ当たりで大量虐殺、なんて十分にありえることだ。
枢の力をもってすれば世界を壊すことなんて簡単にできるだろう。
暁は従兄弟の言葉に激しく同意した。