王妃の日記 | ナノ


 ◇序章:吹雪の中で−2/2−
―――逃げなきゃ

―――逃げなきゃ

吹雪の吹きすさぶ荒原。
その中を、優姫を背負い一歩一歩進んで行く。


―――白亜……優姫を……
……よろしくね……―――


お母様の最期の言葉が
最期の姿が
消し去っても消し去っても
頭にこびりついて離れない。

…なぜ忘却は、私を訪れてくれないのだろう。

目を瞑り深く息を吐いた。
感傷にひたっている暇はない。
敵が追ってきているかもしれない。

早くこの子を安全な場所に―――

そう思う気持ちとは裏腹に、足取りは重く息は苦しい。
今までとは勝手の違う体に戸惑いを覚える。

―――助けて

―――助けて

頭に浮かぶのは
たったひとりの名前で…。

限界を感じ、優姫を雪の上にそっと下ろした。
術にかかり虚ろだった目が光を灯した瞬間―――

「迷子かね?お嬢ちゃんたち、血を吸ってもいいかね?」

血に飢えた吸血鬼が襲ってきた。
とっさに優姫を庇い、その男の前に立ちはだかる。

―――この子は、私が守る。

その途端、視界が朦朧とした。
足元が崩れ、空と大地がひっくり返る。
なに、これ…
もう、だめ…

諦めかけたその時、

ドッ!

何者かに、その男の頭が打ち砕かれた。
その気配は、ずっと頭に浮かんでいた人のもので…
その姿は、ずっと心で呼び続けていた人のもので…

『……か…なめ………』

その顔を見て安心した私は、そう呟き意識を手放した。

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