◇第四十九罪:赦し−7/9−
『嘘……』「そんな、まさか……」
信じられなかった。隣の枢も驚きに目を見張っていた。
湖に浮かぶ懐かしい銀の面影。
湖白と湖雪は寄り添いながら、私たちに向かって微笑んだ。
「お父様、お母様、やっと来てくださったのね」
長い銀の髪が風に舞う。
真紅の瞳が嬉しそうに私を見つめる。
『湖雪…、どうして……』
「お母様が日記にご自分の記憶を残したように、私はこの湖に心を託したの。私の"名前"を鍵にして」
あの頃と変わらない姿、声。
駆け出して思い切り抱きしめたかった。けれどこれは実体じゃない。
「誰に知られずとも良いと思っていたの。けれどやっぱり見つけてほしかったのかもしれないわ。私の本当の想いを。……そうしたらある日、湖白が私を呼んでくれたの」
「城を出て数百年後に戻って来たんです。自分の心と罪に向き合おうとして。懐かしいこの湖で堪らずに湖雪の名を呼べば、湖雪が残してくれた想いを受け取ることが出来ました。そして俺も、いつか父上と母上が来て下さる日を信じて、心だけをこの湖に留めました」
湖雪は嬉しそうに湖白に向けて笑いかけた。
湖白も穏やかな眼差しで湖雪を見つめている。
『湖白…、湖雪…』
狂おしいほどに逢いたかった二人を前に声が出なかった。
でも今、言わなければ。
『ごめんなさい…!ずっと気付かずにごめんなさい…っ。私のせいであなたたちを苦しめてしまった…!』
「お母様、そんな風に思わないで。すべて私が決めたことよ。愛する人のすべてを私で満たしてしまいたかったの。ねえ、お父様ならわかるでしょう?」
「湖雪……、そうだね、よくわかるよ。君は白亜そっくりだけど、中身はどうやら僕似のようだ。今更、気付くなんてね……」
「ふふ、私もそう思うわ。だったら、湖白にすべてを捧げることが出来て、湖白と一つになれた私がどんなに幸せかも、わかってくださるわね」
「辛いな…、父親としては悲しいのに否定できない」
「ありがとう、お父様。……だから、ねえお母様。どうかご自分を責めないで。私のしたことを赦して」
『そんな…、私の方こそ赦してほしいのに…』
「私ね、ずっとお母様になりたかったのよ。お母様は私の憧れで、目標で……、届かなくて妬ましく思うこともあったけれど、それでも……お母様が大好きなの」
『湖雪……っ。私こそあなたがどれほど誇らしかったか…。一途で、真っすぐで、努力家で……私よりずっと素敵な女性だわ』
湖雪は少し目を丸くした後、幼いころのように無邪気に顔をほころばせた。
「大好きよ!お父様、お母様!」