王妃の日記 | ナノ


 ◇第四十九罪:赦し−4/9−
ひらりひらりと、白い雪が降り積もる。

「永遠とも呼べる長い時間、気の遠くなるような幸せも、身を引き裂かれるような絶望も、僕たちは幾度も共に分かち合ってきたね。必要だったとはいえ『日記』を再び開くのは辛かっただろう。けれど君は望んでいた贖罪を叶え、李土を倒し、真実の歴史を若い吸血鬼たちに伝えることも出来た。僕たちの為すべきことは為した。
今のこの時代にはハンターの武器がある。遠いあの日、僕たちが彼に託した短剣が、あの子の血により純血種にさえ死を与え得る武器となって、彼の子孫に受け継がれてきた。同じ血を持つ僕と君にも扱える。
……本当に運命は皮肉だけれど、あの絶望を、永い眠りを経たことによって、君がかつて願った本当の終焉を今度こそ叶えることが出来る。――――白亜、この永遠を終わりにしたいかい?」

一瞬、黒いコートに身を包んだ目の前の枢が初めて出逢ったあの日の姿と重なって見えた。
純白の世界に佇む美しい死神。
あの雪の中の出逢いが、この場所が、私たちの始まりだった。

ねえ、枢。
二人で過ごしたこの永遠は、貴方にとってどんなものだったのかしら。
いつも貴方を振り回してばかりだったわね。
私のせいでたくさん悲しませてしまったわ。
もしかしたら私の知らないところで苦しんだこともあったのかもしれない。
貴方もこの長すぎる生に疲れているのかもしれない。

"この永遠の終わり"
それはとても魅惑的な誘いだった。
でも私の心はすでに決まっている。
だからこそ、ここに来たの。
だけど貴方がこの生に幕を閉じたいというのなら、私も一緒に終わるわ。
貴方のいない世界では意味がないから。

私が答えようとすると枢はさらに言葉を紡ごうとした。
けれどしばらく逡巡して薄く開いた唇を閉じる。
私は真っ直ぐに枢を見つめ返して、じっとその科白の続きを待った。

「君が…、君がまた終わりを望むのならば僕はそれで構わない。君を抱いて眠りについて、灰になって混ざり合うのなら、それはこの上ない安息だろう。
――――けれど少しでも迷っているのなら…………白亜、僕と一緒に生きて欲しい」

それは思いもかけない言葉だった。
どこか縋るような声には悲痛さえ滲み出ていた。
ああ、こんな枢の声を前にも聞いたことがある。


――「……っ、白亜、この扉を開けて。……君なしでは…生きてゆけない……」――


タナトスが王城をも脅かしたあの日。
お互いが死を覚悟した扉越しの別れの夜。
悠久の時を越えた今、貴方はあの時と同じ必死さで今度は共に生きようとこいねがう。
そのあまりに真剣な眼差しに、想いに、胸が詰まって涙が溢れた。

「人間になった君に死が迫った時、身体が震えて世界が真っ暗になった。再び絶望が君を襲っても君を失うよりは良いと、そうなったら今度こそ二人で醒めることのない眠りにつこうと覚悟して君を吸血鬼に戻した。けれどすべてを思い出した時、終わりを望むと思っていた君が、『記憶が戻ってよかった』と言ってくれて、僕の心は救われたんだよ。
あの子たちのいないこの世界は君にとって地獄に等しいだろう。だけど、僕がいる。今までと同じようにこれからもずっと僕がいるよ、白亜。罪を犯したのは君だけじゃない、僕も同じだ。君は贖罪を果たした。僕も贖いたい。…………だから白亜、共に生きてゆこう」

408

/
[ ⇒main]
page:




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -