◇第四十九罪:赦し−2/9−
鬱蒼たる森を抜けると拓けた草原に出た。かつて馬車道だったそこは今や見る影もない。
都を囲んでいた城壁は苔生し、大門はひどく錆びて朽ちていた。
華やかで洗練された街並みは跡形もなく、点々と廃墟が残るだけ。
ああ、こんな光景を前にも見たことがあった。
「思い出すね、あの時みたいだ」
隣を歩く枢が穏やかな声で言った。
忘れもしないあの日。
吸血鬼になって初めて見た王都もこんな風に見るも無残な状態になっていた。
『そうね、吸血鬼になったばかりの風音たちに壊されて…』
破壊された家々、倒れた街路樹、あたりに蔓延する血の匂い。
ああ、こんなにも憶えているなんて。
あの日のことばかりではない。
夜の都として栄えていた往時のことも、まだ人間の国の都だった遥か昔の日のことも、まるで昨日のことのようにありありと思い出せる。
『ねえ、憶えてる?あそこにあった劇場。何度かお忍びでデートしたのよね』
「もちろん。その度に城の者たちに叱られた」
『ここにはお気に入りの宝石商があったのよ。よく貴方からプレゼントして貰ったわ』
「ああ、真珠のティアラと揃いのネックレスがいちばんよく似合っていたよ」
『あれはあの大臣のお屋敷ね』
「彼の話はやめてくれないかな。頭が痛くなる」
『ふふ、貴方、苦手だったから』
枢と手を繋ぎながらゆっくりと、かつての王都を進んで行く。
そうして、城の前に着いた。