王妃の日記 | ナノ


 ◇外伝U:湖は白く凍りつき−11/16−
冬を目前に控えた舞踏会は毎年のことながらとても盛大だった。
城の大広間は着飾った女性たちで溢れ、一層華やかなものとなる。
第一王子と第一王女がファーストダンスをその中心で踊るのは、ここ数百年来恒例となっていた。

「湖白、体調は大丈夫?辛いなら…」

せっかくの夜会なのに、湖雪は踊っている最中も俺の心配をして血を飲むように促して来た。
実際、喉は渇いていたが俺は首を横に振った。
ここ最近、血を貰いすぎている。
このままではいくら始祖といえど湖雪の方が体を壊してしまうだろう。

「俺より湖雪こそ平気か?このところいつも貰ってばかりだ」

「私は平気よ。気にしないで」

縋るような瞳で見上げて来る湖雪に理性が揺らぎそうになるも、笑ってごまかした。
せっかくの夜会だ、今はそんなこと考えずに楽しんでほしい。
俺たちがダンスを終えると会場中から拍手が鳴り、続く曲に合わせて他のカップルたちが踊り出る。
湖雪は少し火照ったのか、風に当たって来ると言って外へ出て行った。
次の相手に萌香を誘おうかとちらりと上座に目を向ければ、ちょうと父上が萌香に手を引かれてホールの中央へ向かっていた。
他の弟たちは貴族の娘と踊っていて、残されたのは母上ひとり。
王妃をそのままにしておく訳にもいくまいと、俺は急ぎ足で上座へ向かった。

『湖白、湖雪とのダンスは素晴らしかったわ』

「ありがとうございます。俺とも一曲お相手願いますか?」

『くす、ええ、ぜひ』

差し出した手に、白い手が重ねられる。
思えば母上とこうして踊るのは久しぶりで、少し緊張しながらリードした。

『随分と上手になったのね。初めの頃は私の足を踏んでばかりだったのに…』

「止めてください、そんな昔の話は…」

懐かしい記憶が蘇る。
花の絨毯の上で母上にダンスを教えてもらった俺は、その目で見つめられるたびに溢れる感情に翻弄されていた。
紅い瞳に囚われて、甘い香りに揺さぶられて。

ああ、あの夜もそうだった。
母上に咬まれて、俺が二度目の生を受けた日。
月の光に照らされた母上はあまりに美しく、あまりに妖艶に俺を誘い込んだ。
この紅い瞳も、甘い香りも、あの頃と全く変わらない。
変わらず、美しい。


その瞬間、ドクリと心臓が鳴った。

399

/
[ ⇒back]
page:




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -