◇外伝T:湖に雪は舞い散って−11/12−
「こ…ゆき……?」戸惑う湖白をよそに、私は短剣を引き抜き、今度は自分の心臓目がけて胸を深く貫いた。
湖白と私の血の匂いが混ざり合って、空気中に満ちる。
濃い濃い、私たちの香り。
「……っ…」
堪らないでしょう。
傷を負って飢餓感を増した吸血鬼の本能。
そんな状態で滴っている血を見たら、理性を保ってなどいられるわけがない。
湖白の目にじわりと紅が滲んだ。
そのタイミングを逃さず、極上の甘い声で誘った。
「湖白…」
それが引き金となったのか、湖白は私の首に襲いかかった。
ジュル、グジュッ、ジュルルル……
容赦なく血が啜られる音が部屋の壁に響く。
そう、飲んで、湖白。
最期の一滴まで私を喰らって。
最も濃い玖蘭の血を持つ始祖である私の血の全てを取り込めば、
あなたは理性を失った獣に堕ちなくてすむはず。
……なんて、そんなのは建前。
ただただ、私の気持ちを知ってほしい。
どれだけあなたを愛しているか知ってほしい。
あなたを私で満たしたいの。
他の誰も入り込めないくらい。
身体も、心も、全てを。
あなたと一つになりたいの。
身体中の血が持って行かれた後、それでもなお吸いついていた湖白はしばらくしてようやく牙を離した。
それと同時に我に返ったのか、深紅の瞳が大きく見開かれた。
「湖…雪……?俺…、俺は……っ」
「しっ……」
叫ぼうとする湖白を宥めよた。
湖白、あなたが悲しむことないのよ?
でも優しいあなただから、それは無理ね。
きっと自分を責めるのでしょう?
だから…